「自称カサンドラ症候群」の妻

知人のそうした反応を受け、「誰にも理解されない」と苦しんだり、「自分が悪いのかもしれない」と思い悩んだりしたあげく、不眠や抑うつ状態に陥ってしまうことがあるのです。

ただし、世の中には“話が通じない夫”や“共感が得られない夫”はASDでなくてもたくさん存在しており、単にそうした夫の愚痴を知人にこぼしているにすぎない、「自称カサンドラ症候群」の妻も大勢います。

また、夫の至らなさを非難するばかりで、自分の至らなさについては棚上げしているとおぼしき人もいないわけではありません。

本来の「カサンドラ症候群」は、あくまで、パートナーが発達障害であることが判明しており、その特性のために妻(夫)が生活上の支障を感じ、ストレスを抱え、心身に不調をきたしていることが明らかなケースに限られます。

額を押さえる女性
写真=iStock.com/Chinnapong
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夫婦生活の長い中高年層で起こりやすい

「カサンドラ症候群」の妻は、ASDの夫と気持ちが通じ合わないことで悩みます。

一般的に、夫婦の間には多くの“暗黙の了解”が存在します。毎日一緒にいるのですから、長い年月をかけながら、たとえば、「あれを持ってきて」と言うだけで、「あれ」が何かが相手もわかり、すぐに手に入れることができるようになります。

そういったコミュニケーションの積み重ねから、夫婦の「絆」が生まれるといえるでしょう。

しかし、ASDの夫とは、この「絆」を感じ取ることができません。そのことへの失望やいらだちが「カサンドラ症候群」の最大の要因だと思います。

そういう意味で、「カサンドラ症候群」は、夫婦生活の期間が短い若い人ではなく、中高年層の夫婦の間で多く起こっていると考えられます。

こういった長年にわたる気持ちのズレに悩んだ末に、妻が実母に夫の愚痴を話しても、「あんなにいい旦那さんはいないわよ。不倫はしないし、家事もいろいろ手伝ってくれるし、愚痴なんて言ったら罰が当たるわよ」とたしなめられるのがオチです。

そこに、誰にもわかってもらえない、カサンドラの悲劇があるのです。