真のシアワセのための「ワーク・ライフ・バランス」とは何か?

結婚式では、新郎や新婦の職場の上司がお祝いのスピーチをするのが一般的です。そのとき、よくこんな言葉が出ます。

「新郎はわが社の期待の星であります。その彼が、今後いっそう仕事に邁進するためには、何より夫婦円満であることが大切です。ぜひ、仲の良い家庭をつくっていただいて……」

聞き流せは、若いカップルの夫婦円満を願う、ごく当たり前のお祝いスピーチですが、私がちょっと引っかかるのは、「仕事に邁進するために仲良くしてほしい」という文脈。結婚はあくまで仕事のため、という意識が垣間見えるところです。

長らく企業戦士として働いてきた上司には、こんな価値観の持ち主が多いのです。私生活の平穏無事こそが、いい仕事をするための大前提というわけです。

もし、新郎新婦の立場でこんな言葉を耳にしたら、お祝いの言葉はありがたく頂戴しながらも、「私はあなたと違います」と心では密かにつぶやいてほしいものです。上司の方には失礼ですが、“人種”が違うのだと肝に銘じてほしい。

「家族を大切にする」という価値観には誰も異を唱えません。しかし、天秤の片方の皿に家族重視というおもりを乗せ、そして反対側の皿に仕事重視というおもりを乗せたときに、仕事重視の皿が一気に沈み込むのが日本の現状です。

昨今、日本では「ワーク・ライフ・バランス」という言葉がよく使われます。

妻のダニエルに「母国、フランスではどうか」と聞いたことがありますが、ほとんど聞かないそうです。そもそもフランスには週35時間以上働いてはいけないという法律があって、平日5日間の1日の平均就労時間にすれば7時間。フランス人はそれ以上働きたがらないので、まず残業などあり得ない。だから、ワークとライフのバランスを取るという発想自体が出てこないというわけです。

一方、日本のビジネス界では、経営者が日頃、ワーク・ライフ・バランスが大切だと口では唱えていても、少しでも景気がよくなってくると、「年間の労働時間が法定を大幅に超えたら過労死が心配だから、どうしたらいいか」といった程度の認識しかないケースが往々にしてあります。経営者がそうなら、上層部の幹部や中間管理職の人たちも似たり寄ったりでしょう。

だから、真剣に「バランス」など考えはしない。「ライフ」より「ワーク」のほうがずっと大事。その旧態依然たる考え方が潜在意識の奥底までしみついているので、先のような結婚式のスピーチが無意識のうちに口をついてしまうのです。