仕事の生きがいなんて、あくまで期限付きものでしかない

吉越浩一郎
1947年千葉県生まれ。ドイツ・ハイデルベルグ大学留学後、72年に上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業。メリタジャパンなどを経て83年にトリンプ・インターナショナル(香港)に入社。その後、トリンプ・インターナショナル・ジャパンのマーケティング本部長、代表取締役副社長を経て、92年に代表取締役社長就任。「早朝会議」「ノー残業」「がんばるタイム」など、スピードと効率重視のユニークな制度を次々に取り入れ、19年連続の増収増益を達成。2006年同社退社後は、講演やテレビのコメンテーターとして活躍。近著に『仕事ができる社員、できない社員』(三笠書房)、『君はまだ残業しているのか』(PHP文庫)、『定年が楽しみになる生き方』(ワック)など。

まず仕事ありきではなく、軸足は私生活のほうに置くべきである。こう言うと決まって、「では仕事は二の次でいいのか?」「仕事より私事を優先しろと言うのか?」という反応が返ってきます。私は、そんな短絡的なことを言っているわけではありません。

もちろん、仕事には全力を尽くす。誰にも負けない実績も残し、それに応じた評価を受けられるよう努力すべきことは言うまでもありません。私が言いたいのは、どちらに自分のアイデンティティを置くかという問題です。

いったい何のために仕事をしているのか。独身の若いビジネスマンに、正面切ってそんな質問をぶつけると、「自己実現のため」「生きがいを求めて」といった優等生的な答えが返ってくることがよくあります。

「お金のため」とか「地位や名誉を得るため」といったあからさまな欲望を前面に出す人は、最近の若い人では少なくなっています。

ならば、自己実現や生きがいって何なのか? 重ねてそう尋ねると、「個々の仕事を通して得る達成感や、社内外の人たちから評価を得ること」。

これもまた、かなり優等生的な答えです。

しかし、私はひねくれ者なのか、どうもその答えにも違和感があります。素直には賛成しかねます。仕事に生きがいとかアイデンティティを求めるなんて、ナンセンスだと思うからです。なぜか?

答えは明快です。その考え方は、定年までの「期限付き」のものでしかないからです。