大停電中でも相撲中継を見せろと駄々をこねる父

老父母との同居がはじまった半年後の2019年9月9日の午前5時頃、房総半島付近に台風が上陸。千葉県を中心とした広範囲が大停電に陥るという緊急事態となった。

我が家のある千葉県の片隅の街も、信号が消え、大型スーパーやコンビニ、ホームセンターは休業を余儀なくされた。総合病院や市役所も復旧の目処が立たず、一時、市内全域が機能不全に陥ったほど被害は甚大だった。

ただ、運がよかったのだろう。我が家のある一画は台風の通過後すぐに通電し、事なきを得る。家屋の被害もなく、いつも通りの生活をすることができた。と言いたいところだが、現実はそう甘くない。

台風一過を蹴散らすほどの勢いで、

「NHKが映らねーぞ。これじゃ、相撲が観られねーだろ!」

老父が駄々をこねはじめる。原因は、強風でアンテナが少し傾いてしまったためなのだが……。平常時でも面倒臭いというのに、緊急時にこれをやられたら、こっちだって黙っているわけにはいかない。

同じ話を何度も繰り返えされ頭の血管が切れそうに

「何を寝ぼけたこと言ってんのよ。生死に関わる緊急事態なんだから、相撲とかほざいてる場合じゃないでしょ!」

いつもより強い口調で言い返すが、激高スイッチが入ってしまった老父は、

「早く電気屋へ電話しろ!」

執拗に繰り返す。

夫は妻を責める
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「さっきから何度も言ってるでしょ。千葉県中が停電してるの。信号は消えたままだし、ガソリンスタンドもお店も閉まったままだし、市役所も病院も必死に復旧作業を進めてる最中なの。屋根が飛んだり、壁が壊れたりしてる家もあるんだから、冷房が効いた部屋でテレビを観られるだけでもありがたいと思わなきゃ罰が当たるよ!」

言って聞かせるが、

「おっ、そうか。それはてーへんだな。……で、電気屋には電話したのか?」

結局は、振り出しに戻ってしまう。

「兄貴の家も、飛んできたトタンが屋根に当たって瓦が落ちちゃったの。ブルーシートを公民館にもらいに行ったり、雨漏りに備えて部屋の中のものを移動させたりする手伝いをしなきゃいけないんだから、わがまま言ってないで大人しくしててよ」

「おっ、そうか。瓦が落ちたんか?」

だから! 朝から何度も言ってるでしょ。

頭の血管がぶち切れそうになる。