実家の台所の惨状に愕然とする

老母の入院中、長きにわたり彼女が管理してきた台所の片付けをはじめたはいいが、腐った食材、大量のプラスチック容器やレジ袋などが、出てくること出てくること。しかも、整理されずにただただ放り込んであるのだから、どこから手を付けたらいいのか……と、途方に暮れる。日頃、立派なことを言う割には、全く以て実態が伴っていないではないか!

服や未使用品がたくさんある汚れた部屋。
写真=iStock.com/Yusuke Ide
※写真はイメージです

それが老いによるものなのか、元々雑な性格なのかはさておき、大学進学と同時に実家を出て早40年。たまに帰省することはあっても、母が仕切っている台所の流しの下や食器棚の一番下の開き戸の中までチェックすることはなかったわけで。まさかのまさか、ここまで悲惨な状態に陥っているとは……。正直、想像だにしていなかった。

「おやすみー」

老父が二階の寝室に引き上げた後の深夜の台所で、一人死蔵品と格闘する。消費期限の切れた食材や何年も前に賞味期限が切れている調味料だけでも45リットルのゴミ袋があっという間にいっぱいになり、汚れでベタついたレジ袋やプラスチック容器は優にその3倍もある。洗面所の戸棚に押し込んであった大量のタオルを一度全部出してたたみ直すだけでも一苦労。

いやはや全くどういうことよ。

「あの人、寝たきりになっても口だけは達者なんだろうなあ」

他人事だった介護を自分事として捉えた瞬間だった。

老人といえども労わる気になれない

その後、四半世紀勤めた会社を辞め、フリーの編集ライターとして生計を立てていた私は、打ち合わせや取材のときだけ上京すれば、後はリモートワークで何とかなるだろうと判断し(とは言え、ある種の覚悟は必要だったが)、東京からアクアラインを使って一時間半あまりのところに位置する故郷にUターン移住を決める。

だが……、待っていたのは予想を上回るほどの強烈な現実。自制が利かない、人の都合などお構いなし、理屈が通用しない老父母の破壊力は驚くほどすさまじく、さらにはそこに叔父叔母夫婦まで参戦するのだから、身体がいくつあっても足りないどころか、日々爆発寸前の状態に追い込まれていく。

「高齢者を大切に!」

「老人は労りましょう」

なんてきれいごとを真に受けていたら、介護する側がやられてしまう。身体の衰えに反比例するかのように、わがままと憎まれ口が日々増していく老父母と浮世離れした叔父叔母を巡るやっかいな物語の幕が切って落とされたのである。