ハード面の整備は進んでいても就労支援は遅れている日本

【泉】ハード整備の面で言うとその通りで、駅などのバリアフリーに関しては、日本は世界トップレベルだと思います。ただ、例えば就労支援など、障害者の方が生きていくための制度設計においては、海外のほうが進んでいますね。

【ひろゆき】フランスでは、日本に比べて雇用施策の対象となる障害者の範囲が広いそうです。つまり、軽度の症状でも障害労働者認定が下りるので、ある意味では働きやすい環境なんですよね。障害者に限らず、「働けない」って言うと、生活保護以外にいろんな支援が用意されているので、暮らしやすいという側面もあるかもしれません。

障害者福祉の政策ももっとやりたかった

【泉】明石市ではその他にも、障害者に関する4つの条例を施行しています。1つは、手話言語を確立し、要約筆記・点字・音訳など、障害者のコミュニケーション手段の利用促進を支援する条例。2つ目は、今お話しした、スロープなどの費用を市が助成する制度を入れた障害者配慮条例。3つ目は、私にとっては大きな意味を持つ、優生保護法の被害者を支援する条例です。

優生保護法(1948〜1996年)で障害者が強制的に不妊手術や中絶を受けさせられた問題で、国の制度では対象外だった配偶者と中絶被害者にも支援金を支給する条例を、自治体として全国で初めて制定しました。

そして4つ目は、2022年3月に制定したインクルーシブ条例です。これは、誰ひとり排除せず、すべての人が自分らしく生きられる街としての明石市の理念をまとめたもの。私の市長在任12年間の強い思いが詰まった条例で、4年かけてつくりました。これらはすべて全国初の条例で、先に話した2つの条例は、すでにさまざまなエリアに広まっています。

【ひろゆき】いずれも素晴らしい条例だなと思うんですが、すごく素朴な疑問として、泉さんのその熱意はどこから来てるんですか? 例えば子育て政策なら、経済的、あるいは精神的に困っている子育て層を助けたいっていう信念がベースにあって、プラスアルファで経済効果や少子化対策も見込めるので、行政が積極的に予算と労力を割くのは理解できるんです。

ただ、障害者支援に関しては、それで経済を回すっていうのは現状の日本では難しいと思うので、わりと後回しにしがちな政策だと思うんですよ。特に優生保護法に関する条例なんかは、実現にこぎつけるまでは容易な道のりじゃないだろうなっていうのは簡単に想像できるわけで。

【泉】それで言うと、私、障害者福祉が原点なんですよ。本当は明石市でも障害者福祉の政策をもっとやりたかったんだけど、ご指摘の通り、それで経済を回すのはなかなか難しい。だから最初にまず子育て政策をやって、一定程度の成功を収めてから、障害者福祉に力を入れた感じですね。