外交経験ゼロだが、度胸と人気はある
1月24日、仏ストラスブールで開かれていた欧州評議会の総会で、ドイツのベアボック外相(緑の党)が、「われわれはロシアを相手に戦争をしている」と口を滑らし、外務省が後始末に追われている。これがロシアに対する宣戦布告と取られては大変なことになるからだ。
EUの大国ドイツの外交方針は、多かれ少なかれヨーロッパの外交に影響する。その重要さを知っているからこそ、ショルツ首相は戦車レオパルト2の供与に関しても、よもやNATOが戦争に巻き込まれることのないよう、慎重すぎるほど慎重に事を運んでいた。それを、ベアボック外相が見事になぎ倒していく。しかし、実際問題として、現在のドイツの外交はこの若い女性の手に委ねられているのだ。
ベアボック氏は政治や法律を勉強したことがなく、外相になるまで、外交経験どころか、地方政治の統治経験さえまったくなかった。ところが今や、度胸と国民の人気に支えられ、緑の党のイデオロギーを軸にした「価値を重視したフェミニズム外交」という空手形と共に世界中を飛び回っている。
しかも、それを好意的に演出しているのが多くの主要メディア。特に第2テレビが発信するベアボック氏の勇壮な映像のおかげで、ドイツにはベアボック・ファンが実に多い。しかし、彼女の言動が他国の政治家に真剣に受け取られているかというと、まったく否だ。政治の国際舞台はそんな甘いところではない。
ロシア報道官はすぐさま反応
案の定、今回も、「われわれはロシアを相手に戦争をしている」という言葉を、ロシアが聞き逃すはずもなかった。ベアボック氏の言う「われわれ」が、ドイツを指すのか、欧州評議会を指すのかは不明だが、ロシアのペスコフ報道官は即座に、「これらの国々(米国と、ペスコフ氏の言及したヨーロッパの国々)の行動(軍事的介入の意)は、すべて同紛争への直接的な参加とみなす」と雄々しく吠えた。
欧州評議会というのは1949年に設立された国際機関で、ヨーロッパにおける政治的、法的、社会的、経済的な協力を目的とする。加盟国は、昨年3月にロシアが抜けて現在46カ国。もちろんEUの27カ国よりずっと多く、いずれにせよ、れっきとした国際組織だ。
この日、その公式会議で30分のスピーチをしたベアボック氏は、席に戻った後、評議会メンバーの質問に答えた。4人目の質問者は英国の保守会派を代表する議員で、その内容は、「あなたは今日、ドイツはウクライナにレオパルト戦車を供与しなければならないという、実に強い発言をした。しかし、ドイツはそれを拒否し、戦争を長引かせ、プーチンを助けている。
われわれは、あなたのウクライナについての寛大な言葉を、あなたの政府の行動につなげるために、いったい何をすれば良いのか? わが英国の議会が決定できることを、なぜ、ドイツの議会はできないのか?」という挑発的なものだった。