平和主義の政党が重火器供与を訴える不可解

ただ、その途端、勢いづいたゼレンスキー大統領は「戦車は300両必要」と言い、さらに攻撃用の戦闘機まで執拗しつように要求し始めた。現在、ショルツ首相は、戦闘機の供与は断固否定しているが、ドイツのこれまでの供与品が軍用ヘルメット5000個から始まり戦車に至った経緯を見れば、この先どうなるかは霧の中だ。しかも、肝心のベアボック外相が何を考えているかが、さっぱりわからない。

緑の党というのは、元はと言えば頑迷な平和主義者の集まりで、武器の輸出は、たとえ紛争をしていない国に対するものであっても根強く反対していた。ところが、外交の権限を手にした途端、いきなり好戦的になり、ベアボック外相はウクライナへの重火器の供与を強硬に主張している。

当然のことながら重火器は、今、寒さで凍えるウクライナの人々に暖を取らせるためではなく、春以降の徹底抗戦のためのものだ。つまり、それにより戦争は間違いなく長引き、ウクライナ、ロシア双方でさらに多くの命が失われる。それでも、かつての平和主義者はそんなことには構わず、交渉による和平の可能性にも、なぜか目もくれない。すべてが不可解だ。

思えば、就任以来1年余り、ベアボック氏のやってきたことは、テレビ映えする外遊や、鳴り物入りの戦地視察など、とにかく情熱的な演出のパブリシティばかりだった。しかも、それらが大成功したらしく、国民の間でのベアボック氏の人気は常に高かった。

ウクライナ戦争はプロモーション合戦と化している

大衆紙「ビルト」が昨年12月にすっぱ抜いたところによれば、ベアボック氏専用のスタイリストが、月給7500ユーロ(100万円強)で雇われているという。完璧な映像と写真を提供するため、スタイリストは世界中を同伴しており、そのための経費もバカにならない。もちろんすべて公金である。ちなみに、ベアボック氏の物言いは、常に直裁的、かつ強権的だが、おそらくこれも人気獲得戦略の一環だろう。ドイツ人は、若い女性の決然とした態度が大好きなのだ。

ウクライナ戦争がプロモーション合戦になって、すでに久しい。それどころか、パブリシティで誰よりも成功を収めたのは、他でもないゼレンスキー大統領ではないか。戦争勃発直後より、メディアが日課のように流し続けた氏のビデオメッセージで、今や世界中の多くの人々が、ウクライナは勝利しなければならず、ウクライナ支援は民主主義国の義務であると信じている。ウクライナは、自力で戦争を遂行する力など一切ないにもかかわらず、である。

爆撃を受けたウクライナの集合住宅
写真=iStock.com/Joel Carillet
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ただ、ウクライナの勝利が約束されているとするなら、ロシアは敗北するのだろうか。そもそも、ウクライナは現在、まさにゼレンスキー大統領のビデオのおかげで、オピニオン合戦では優位に立っているが、戦争の本来の尺度である軍事的な意味では、とっくの昔に敗北している。