途中でやめておけば問題にならなかったが…
もっともベアボック氏は、このような質問に対しては用意ができていたに違いない。立板に水を流すように、「今、互いを非難し合っても、プーチンに勝利をもたらすだけです」「もちろん、私たちは戦車に関しても、もっと多くをなすべきです。しかし、一番重要、かつ決定的なことは、私たちが仲間内で責任をなすりつけ合うことではなく、ヨーロッパが連帯することです」と言った。ここでやめておけば何の問題もなかっただろう。
ところが、彼女は、「なぜなら、われわれはロシアを相手に戦争をしているのであり、互いの間で戦っているのではないからです」と続けた。おそらくこの部分はアドリブだったのではないか(当該部分の映像がYouTubeに上がっている)。
すぐさま、これまでもベアボック外交に懐疑的だった人々の間から、不用意な発言であるという非難の声が上がった。また、在独ロシア大使館も、ドイツが戦争の当事国ではないと言いながら、当の外相がヨーロッパとロシアが戦争状態にあると発言している矛盾について、ドイツ政府に説明を求めた。片やドイツの外務省は、「ウクライナはロシアによる侵略戦争に対し、国連憲章で保障された自己防衛権を行使している。それをわれわれが支援したからといって、ドイツが戦争の当事国になるわけではない」と、火消しに躍起。
NATOからの圧力と失言でついに供与を決定
そして、その脇では第2テレビがいち早く、ベアボック氏を非難しているのはちょっとしたミスを針小棒大に騒ぎ立てるろくでもない人たちと言わんばかりの記事を載せ、氏を擁護した。
ショルツ首相がこれまで、NATOの同盟国からせっつかれようが、自身の与党内から苦情が出ようが、戦車レオパルト2のウクライナへの供与をのらりくらりとかわし続けていたのは、それにより戦争がエスカレートし、最終的に核戦争が引き起こされる事態を懸念していたからだと伝えられる。また、NATOのシュトルテンベルク事務総長も、昨年までは重火器の供与には慎重だった。
ところが、それが今年になって一気に豹変。シュトルテンベルク氏は、ウクライナへの軍事的支援が平和への一番の近道と言い出し、それどころか、ロシアが核を使用する可能性は低いとして、ショルツ首相を説得する側に転じたのだ。
こうしてレオパルト2の供与を促す圧力は高まり、結局、前述のベアボック氏の失言の翌日、ショルツ首相は力尽きてレオパルト14両の供与を発表。他の同盟国と合わせて、計90両がウクライナに送られる。ドイツがロシア兵の殺害に資する武器を国外に出すのは、第2次世界大戦以来、初めてのことだという。