今はどこに会社があっても一緒ですよ
【原田】話は変わりますが、地方の大学の病院長としては、ミキハウスが八尾市という、大阪の中心部から離れた場所に本社を置いていることに興味があります。ある程度規模が大きくなると、本社を東京に移すという企業も少なくないですよね。
【木村】(大きく手を振って)もう今はどこに会社があっても一緒ですよ。
【原田】確かに今となってはリモートワークが一般的になりましたが、ミキハウスは一貫してこの場所から動いていない。
【木村】本社の位置より、どうしたらいい商品を安定供給できるかの方を気にしていました。ただ、設計にはこだわりました。この本社ビルを建てたのは今から約30年前、創業15年ぐらいした頃でした。
誰に設計を頼もうかと調べていたら、やはり(建築家の)黒川紀章さんだと。それで会いに行ったんですが、(首をひねる仕草で)八尾に本社? あかんあかん、はよ、帰りって感じで門前払い(笑い)。
【原田】まだミキハウスの知名度がなかったんでしょうか。
【木村】3回目にJAL(日本航空)とANA(全日本空輸)、そして新幹線グリーン車の機内誌を持って行ったんです。ここに広告を出している会社です、図面引いてもらえませんかって。そうしたら分かったって、設計してくれました(笑い)。
【原田】木村社長の中にこうあるべきという理想がはっきりあって、ぶれずに一直線に行く。そして八尾から世界中に展開しておられる。
とりだい病院では新病院構想が始まっています。ローカルとグローバルの両立という観点でも木村社長のやり方は参考になるかもしれません。
パリ、上海、シンガポール…海外売上比率が6割
【木村】ぼくたちアパレルの世界で、日本国内だけのビジネスを考えたらもう大不調です。ミキハウスグループの売上のうち、だいたい6割が国外です。現時点で国内直営店が約120店舗。
国外では、パリ、ロンドン、モスクワ、キーウ、シンガポール、ホーチミン、ジャカルタ、北京、上海、ソウル、メルボルンなど世界各都市に90店舗を展開しています。
2022年末に、シンガポールのマリーナベイ・サンズの中にある高級ショッピングモールに直営店を開きました。
【原田】マリーナベイ・サンズは屋上にプールがあることで有名なラグジュアリーホテルですね。世界で最も勢いのあるアジアの富裕層から、高級ブランドとして認められたということになります。先ほど、日本と海外の売値が違うという話をされましたが、現在もそうなのですか?
【木村】海外では、輸出などの経費がかかるので上乗せして価格をつけています。
【原田】今はインターネットの時代ですから、日本で買い付けて送るなどの裏技も横行するのではないですか?
【木村】それがあまりないんですよ。ネットの世界では偽物も出回っているじゃないですか。ミキハウスの顧客は値段の安さよりも、本物を手に入れる方が大切だと考えているのかもしれません。