分数を「ピザ」で説明する理由

他の例として、子どもに「分数の計算」を教えることを考えてみます。

学校や塾などで分数をピザに置き換えて理解させようとする教師がいます。実はこれもまったく同じ発想が根底にあります。

分数という数そのものではピンとこない子どもも多いとするなら、いかにしてこの分数というものの意味を理解させるかを考え、伝え方を工夫することが求められます。そこで分数と同じ構造をし、かつ子どもでもイメージが湧くような別物に置き換えて伝えようとします。これが分数を教える教師がピザで説明する理由です。

ですからもしあなたがなんらかのたとえ話を使ってコミュニケーションをする場面があるとしたら、単に同じ構造のもので話せば伝わるわけではなく、相手がピンとくるかという視点が極めて重要になります。

確認の意味で、簡単な演習問題を用意しました。

【演習問題】
「プレイヤーとマネジャーの違い」を小学生に理解させる話を考えてください。小学生がピンとくるようなたとえ話が必要です。

余談になりますが、優れた数学の指導者はこのような子どもでもわかるたとえ話が上手です。先ほどの分数の例がその典型ですが、他にも、ある数学の指導者は「微分」という概念を「登山」にたとえて説明したり、またある数学者は「曲がった紐」にたとえて説明したりします。相手に理解させるコミュニケーションが上手な人はたとえ話が上手であることは間違いないでしょう。

「それを作っているものは何?」という発想

そこで次のような問いが自然に生まれます。

「どうすれば同じ構造の別物を見つけることができるのか?」

正直に申し上げると、突然これが上手になるということはまずありません。少し長期的に訓練が必要なものであることは間違いありませんが、すぐに実践できるコツのようなものをご紹介しますので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

先ほどご紹介した例の中に、「ビジネスにおいて市場や競合などを分析せず闇雲に施策を乱発すること」から「暗闇でボクシングをするようなもの」というたとえ話が生まれるというものがありました。あまりに無謀な行為であることがとてもわかりやすく伝わります。このたとえ話は私の友人が教えてくれたものですが、なぜこの友人はこのたとえ話を作ることができたのか、私の仮説も交えて解説します。

ヒントは、「それを作っているものは何?」という問いです。「ビジネスにおいて市場や競合などを分析せず闇雲に施策を乱発すること」という出来事は、いったいどんな要素で成り立っているのでしょうか。その答えをシンプルに箇条書きしていきます。

・戦いの場での話
・敵や場など周囲が見えていない
・とりあえず施策を乱発

こんなところでしょうか。「ビジネスにおいて市場や競合などを分析せず闇雲に施策を乱発すること」という出来事にはこの3つのことが盛り込まれており、そしてこの3つで作られた出来事だと捉えるのです。