要素をさらにシンプルにする

そこでこの3つを満たすような別物の存在を考えます。思い浮かばないので、さらにこの3つをシンプルにし、究極まで情報量を削ぎ落とした表現にしてみます。

・戦い
・見えていない
・乱発

ここは想像力を働かせる必要があります。この3つのキーワードからおそらく浮かんだのが、真っ暗な場所で、相手が見えないのにパンチを繰り出し続けるボクサーの姿だったのではないでしょうか。

「ビジネスにおいて市場や競合などを分析せず闇雲に施策を乱発すること」
「暗闇でボクシングすること」

ボクシングリング
写真=iStock.com/allanswart
※写真はイメージです

こうしてこの2つは同じ構造をしている別物であると説明がつきます。おそらく私の友人はこれを一瞬で行ったはずです。本人は自分が何をしてこのたとえ話を思いついたのか説明ができないかもしれません。しかし私は、すべてのたとえ話はこのような思考法の結果として生まれるものだと思っています。

もしご納得いただけたら、ぜひ今日から「それを作っているものは何?」という問いを習慣にし、ある物を別物にたとえる訓練をしてみてください。

ではひとつ演習問題をご用意します。もちろん、「暗闇でボクシングすること」よりもずっと納得感があるたとえ話をお願いします。

【演習問題】
「ビジネスにおいて市場や競合などを分析せず闇雲に施策を乱発すること」を別の物にたとえ、いかにそれが無謀なことであるかを伝えてください。

「期待とはベクトルである」

ではここから、前項の思考法がいかにコミュニケーションにおいて有効かを著名人の事例を使って解説してまいります。

タレントであり予備校講師として活躍されている林修さんは、インタビューにおいて次のような発言をなさっています。

「期待とはベクトルだ、という認識を持つことが大切ですね。」

【参考】moviecollectionjp「林修先生曰く『準備』の前に『覚悟』があるべき/東進“準備哲学”プロジェクトWEB動画

まずベクトルとは数学で登場する概念ですが、簡単に申し上げると「数量」と「方向」の2つをセットにしてひとつの量と考えるものです。例えばあなたがいまいる場所から好きな方向に一歩進むことを考えます。どの方向で進もうとそれが同じ一歩であり、「数量」としては同じです。しかし北に向かって一歩進むことと東に向かって一歩進むことは、「数量」は同じですが「方向」は違います。「北に向かって一歩」と「東に向かって一歩」は異なる量だと定義するのがベクトルです。