1.駅でなくても買える、2.大幅なコストダウン

現在利用されている乗車券は裏面の磁気データを書き込み、自動改札機でこれを読み込むことで有効判定を行っている。つまりきっぷは特殊な用紙と磁気情報を書き込む機械がなければ作れない。

その結果、きっぷは駅か旅行代理店でしか発行できないので、他社のきっぷとのセット券や施設利用券とのセット券を出先で買うことができず、販路が限られてしまうのだ。それがQRコードであれば、どこでも印刷でき、画面上に表示しても使えるので駅に出向く必要がない。

また磁気券やICカードに書き込める情報は限られるが、サーバにデータを持たせるのであれば複雑な処理が可能で、従来は実現できなかった多様なサービスも可能になる。

これは出発から到着までさまざまな交通手段や観光地をシームレスに結びつけるMaaSとも相性が良い。近鉄がデジタル企画乗車券を導入した狙いはここにあるのだろう。

そしてもうひとつの目的がコストダウンだ。磁気乗車券には磁気データを保持できる塗料を用いた特別な用紙が必要で、また回収したきっぷも産業廃棄物として処理する必要があるなどコストが高い。何より磁気対応の自動券売機や自動改札機は、ベルトやローラーできっぷを搬送し、磁気データの読み込み・書き込み、印字などをする精密機械の塊であり、製造コストが非常に高い。

1000万円以上する自動改札機を全廃したいが…

加えて定期的に点検・整備を行わないと券詰まりを起こすためメンテナンスコストがかかる。これを全廃したいというのが鉄道事業者の偽らざる本音だ。この問題の解決策は都市部と地方で対応が分かれる。

都市部では2000年代以降、ICカードが急速に普及し、磁気券の利用は大幅に減少した。JR東日本の首都圏エリアにおけるICカード利用率は2021年度に約95%に達している。

そのため自動改札機のほとんどは、ICリーダーのみが設置された「IC専用」となり、磁気対応の自動改札機はごく一部しか設置されていない。従来の自動改札機は1000万円以上するのに対し、ICリーダーは数十万円で済む上、可動部がなく故障しないのだから、鉄道事業者にとってはいいことづくめだ。

しかし日常的に鉄道を利用しない人にもICカードを強制するのは困難であるため、一回限りの利用はきっぷを買わざるを得ない。また近年、急速に廃止が進んではいるものの、回数券など磁気券しか対応していない割引乗車券もあった。

磁気券がわずかでも残る以上、磁気対応の自動改札機を完全に廃止することはできない。都市部では、この「残り5%」への対応が最大の課題であった。