税理士が実践している「大事なもの袋」

ご主人が財産目録をつくってくれる気になったとしても、すべての財産名をリストアップするだけでなく、その金額も記さなければなりませんから、これはなかなか大変な作業です。そこでおすすめなのが、「大事なもの袋」をつくり、その中に通帳や生命保険証券などを放り込んでおくという方法です。

これは私自身も実践していることで、私の場合はファスナーが付いているビニール製のケースに、通帳や生命保険証券など重要と思われる書類をすべて保管しています。このケース自体は文具店や百円ショップで簡単に手に入るものですが、もしも私が死んだときには、残された家族はこの「大事なもの袋」を開ければすべての財産を把握できますので、手間も費用もあまりかからず、費用対効果が抜群です。

年に1回くらい中身をチェックして古いものは捨てておけば、さらに精度が上がります。この方法なら、財産目録をつくるよりも圧倒的に手間がかかりませんから、ぜひ試していただきたいと思います。

もしできることなら、取り扱い説明書のようなイメージで、銀行預金の金額や生命保険に加入している金額を書面に記載し、「このお金は妻に使ってほしい」「このお金は子どもの教育費のために使ってほしい」「この人に連絡すれば生命保険の手続きを滞りなく進めることができる」など、財産をどのように取り扱ってほしいか、家族に伝えるものがあるとより良いと思います。

遺言書がないと自分の意思が伝わらない

「生前からの相続対策」と聞いて、遺言書の作成を思い浮かべる方も多いかと思います。遺言書を書くべきか否かというのに、財産金額の大小は関係ありません。自分が死んだあとに財産を誰にどれくらい渡すかを事前に自分で決めておくことで、残された家族や親族が相続争いをすることを未然に防ぐことができ、円満に相続を進めることが可能になります。

たとえば、夫婦に子どもがおらず、ご主人が地主家系の末っ子長男だったとしましょう。既にこの夫婦それぞれの両親は他界していますので、遺言書がなければご主人の財産の多くは妻、そしてその後は妻の兄弟姉妹へと相続されていきます。ご主人が「自分が受け継いだ土地は姉たちに返したい」と考えているなら、遺言書でその意思を残さなければ、絶対に叶えられません。

あるいは、前妻との間にも現在の妻との間にも子どもがいて、「現在の妻との子どもだけに財産を残したい」という場合も、遺言書を書いたほうがいいでしょう。前妻との子どもも、現在の妻との子どもと同様に、相続する権利があります。