「いざとなったら母親に戻す」は現実的ではない

「子どもたちに生活費の援助を頼めばいい」と考える方もいるかもしれません。実際、お子さんに「二次相続のことを考えて、一次相続で多めにお金を分けておく」と伝えたときに、「もしもお母さんがお金に困ることがあったら、私たちが援助する」と答えるお子さんもいるでしょう。しかし現実には、一度受け取ったお金を母親に返すというお子さんは、あまり見られないように思います。

相続に限らず、一度自分がもらったものに対して、相手から「やっぱり返してほしい」と言われても、すんなり返すというのはかなり難しいことではないでしょうか。「もらったものは返せない」「一度自分がもらったのだから、このお金は自分のものだ」という心境になるはずです。

そして子どもたちも、住宅ローンや自分の子の教育費など、いろいろなお金が必要となります。「相続したお金ありき」で生活設計を立てていれば、あとになって変えるのは決して容易ではありません。そのため、「子どもが相続したお金を、いざとなったら母親に戻す」というのは、あまり現実的ではないと私は考えています。

まず優先すべきは、妻の老後の生活ではないか

私のスタンスとしては、たとえ二次相続時の相続税の負担が大きくなろうとも、残された奥さまが今後の生活に必要な分のお金を最初から受け取ったほうがいいというものです。

島根猛『「もしも夫が亡くなったらどうしよう?」と思ったら読む本』(クロスメディア・パブリッシング)
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たしかに、一次相続で妻が多くを相続して相続税が安くなると、その反動で二次相続での相続税が高くなる恐れがあることは事実ですので、私は相続のご相談を受けたお客さまにはこのことは必ずお伝えしています。

しかし、相続において何を最も優先するのか。一次相続時の相続税が少ないほうがいいのか、それとも二次相続を見据えてトータルの相続税を少なくするほうがいいのか――。何を最も優先すべきか考えると、まず優先すべきは、やはり奥さまの老後の生活ではないでしょうか。

相続では、節税はあくまでも手段のひとつにすぎず、最も大きな目的は、奥さまのこれからの生活を守ること、もっといえばご主人を亡くされたあとの人生を、不安や後悔なく豊かに生きることです。この一次相続で奥さまに多く財産を残すというのは、それを実現するための第一歩となります。

それに税金対策は、相続後でもできることがあります。二次相続のことばかりを憂いて対策を立てたがために、奥さまの生活が窮屈になってしまわないよう、二次相続のことは「ちょっと意識しておく」くらいに留めておくのがちょうどいいのです。

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