相続について真剣に考えるだけで意味がある

遺言書でいえば、こんなケースがありました。お客さまは80代の男性で、遺言書の作成をお手伝いしたのですが、ある日「遺言の内容を見直したい」とご連絡をいただきました。この方と奥さまは、高級介護施設で暮らしていました。一般的なシニア世代よりはお金に余裕があるのですが、とても心配性で、「自分が死んだら妻がお金に困らないか」と不安になって遺言書の見直しを考えたそうです。

遺言書
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

そこで私は実際にお会いしてお話をうかがい、3カ月くらいかけて遺言書を書き直す段取りを整え、どのように財産を分けたいのか、考えをまとめていただくことにしました。

ところがその後しばらくして、この方から「財産の分け方に悩んでしまって、遺言の内容を決められない」という連絡がきたのです。結局私がアドバイスしながら配分を決めたのですが、この方のように、財産配分を自分で決められないという方は少なくありません。

結果として、遺言書を書こうとしていても、内容が決まらないまま放置してしまうというケースもありますが、遺言書を書くということは、ご自身の財産を棚卸しして相続について真剣に考えるという面で、大きな意味があることです。

財産配分を決められなくても、「とりあえず財産目録だけでもつくっておこう」となれば、十分に意味があったといえるでしょう。「そういえば、放ったままの口座がある」と気づくきっかけになるかもしれません。ご主人が「遺言書を書いてみようかな」と考えるということは、それ自体で相続対策を前進させることになるのです。

「二次相続」対策がなぜ必要なのか

第1回でもお話ししましたが、最近注目度が高まっているのが「二次相続」です。

夫婦のどちらかが亡くなったときの相続が一次相続で、たとえば、ご主人を亡くした場合、残された奥さまと子どもが相続人になります。この状態で次に奥さまが亡くなったときの相続が二次相続で、このときの相続人は子どもだけです。

二次相続では一次相続と比べて税負担が大きくなる可能性が高く、そのためメディアがこぞって二次相続対策による節税策を取り上げています。

二次相続で税負担が増える理由のひとつは、二次相続では配偶者に対する税額軽減が使えないからです。先に述べた通り、二次相続での相続人は子どもたちですが、相続人が配偶者であれば、相続した財産が法定相続分または1億6000万円までであれば相続税がかかりませんが、子どもたちはこのお得な制度を使うことができません。

もうひとつ、基礎控除額も小さくなるという理由もあります。二次相続では相続人の人数自体も減るので、基礎控除額も自ずと小さくなるわけです。