もし夫が先に亡くなったら、残された妻はどうなるのか。税理士の島根猛さんは「ご主人名義の銀行口座が使えなくなり、奥さまが当面の生活費に困るというケースがある。まずは奥さまの生活資金を保障するという視点を持って、相続について考えてほしい」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、島根猛『「もしも夫が亡くなったらどうしよう?」と思ったら読む本』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

90歳の先輩女性の手、空の財布を持つ
写真=iStock.com/SilviaJansen
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9割以上の人には相続税が発生しない

「相続におけるお金の問題」と聞いて多くの人の頭に真っ先に思い浮かぶのが、相続税のことだと思います。

2015年の税制改正によって、相続税の申告義務があるかないかの判断基準となる「基礎控除額」が下がり、かつ、最高税率も引き上げられたことから、相続税の課税対象者が増えることになりました。

この改正で相続税対策への関心が急速に高まり、「相続税が実質増税されたから、早く対策を講じないと大変なことになる」――多くの人がそんな不安を抱いたようです。この流れを受けて、相続税対策を謳うセミナーがそこかしこで開かれ、各メディアでもこぞって特集されるようになりました。

たしかに、この税制改正によって課税対象者は増加しました。しかし実は、2020年時点でいえば、相続税を納めなければならない人の割合は、相続が発生した人のうちわずか1割にも満たないのです。

現に、2020年の被相続人数(死亡者数)は約137万人でしたが、これに対して相続税を納めたのは約12万人でした。つまり、被相続人数のうち8.8%しか相続税を納めていないわけで、9割以上の人には相続税が発生しないということになります。

「相続対策=相続税の対策」ではない

相続をめぐってのトラブルをニュースやネットで見たことがある人も多いかと思いますが、そうしたケースはごくわずかであり、よほど巨額の財産があるケースを除けば、残された奥さまが相続税の負担に悩まされることはあまりないのです。

実際、配偶者が相続人の場合は相続税額を軽減する「配偶者の税額軽減」という制度があります。これはご主人を亡くした妻が相続する財産が法律で定められた額(法定相続分)か、もしくは1億6000万円までは相続税はかからないという制度で、ご主人に先立たれた妻の生活を守るための制度です。もちろん、妻が先に亡くなり、夫が残されたケースでも適用ができる制度です。

相続税対策というのは、あくまでも相続対策に含まれる要素のひとつにすぎません。

相続対策においては、残された方々のその後の生活や大切な財産をトータルで守る視点、特に残された奥さまがその後の人生を豊かに暮らせることが、最も大切だと私は考えています。