生命保険を頼りにできない人は意外に多い

幸いにもこの方は、お子さんたちの助けもあって生活費に困窮することはなかったのですが、こうした方は意外に多いのではないかと感じています。

夫が生命保険に入っていれば、夫が亡くなったあとにとりあえずまとまったお金が手に入りますから、さほど恐れることはありません。ところが実際には、生命保険に入っていない年配の方が意外に多いのです。

たとえば、かつては「掛け捨て型の定期保険」に加入していたのに、更新時期を迎えて解約したというケースをよく見かけます。子どもが小さいころは、「自分に万が一のことが起こっても、残された家族が困らないように」と考えて契約を更新し続け大きな死亡保障を持ち、子どもが独立して手が離れたタイミングで更新をやめる。老後には「生命保険には入らずに、自分が病気になったときのための医療保険だけに加入しておこう」と考える。

この考え方に、私は何も間違ったところはないと思います。人生のステージにおいて子どもが小さいときには、大きな保障が必要になります。しかし、人生には様々なステージがあります。老後の夫婦ふたりで生活するステージにおいて、どのような保障が必要になるか、「夫が亡くなった後の、残された妻のその後の生活費」を保障するという視点がすっぽり抜け落ちてしまっています。

日本の女性が喪服を着て
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夫名義の銀行口座が凍結されたらどうなるか

独立して自力で生計を立てているお子さんは、特に金銭面で困ることはないと思います。しかし年金を主な収入として生活している夫婦で夫が先に亡くなった場合、残された妻は遺族年金を受け取ることはできますが、たいていの場合は世帯で受け取る年金の金額が減ってしまうことになりますので、死活問題となります。

たとえご主人が賃貸物件を経営する不動産オーナーで、死後の家賃収入が期待できても、家賃が振り込まれるご主人名義の銀行口座が凍結されれば、残された奥さまがお金を引き出そうにもなかなか容易なことではありません。

この銀行口座の名義変更にも相続上の手続きが必要になりますから、奥さまの名義に変更するにも、けっこうな時間と手間がかかります。