二次相続対策が注目されているが…

「残された方々の生活を守る」という視点でいえば、女性の方々のなかには、「夫の死後の自分の生活については心配していないけれど、その後自分が死んだときに、子どもたちの間で争いが発生したら困る」と考える方もいるかもしれません。

夫が亡くなって発生する相続を「一次相続」、妻自身が亡くなって子どもへの相続を「二次相続」といいます。たしかに二次相続対策の重要性を訴える税理士やメディアも散見され、税理士からのアドバイスの多くが「二次相続時の相続税を減らすために、一次相続時では残された奥さまに相続させる財産を減らしましょう」という内容になっているものをよく見聞きします。

しかし私は、それはあまり得策ではないと考えています。二次相続というのは、「自分が死んだ後」に発生する事態です。「死んだ後のこと」に対する対策よりも、「自分が生きている間のこと」を重視したほうが、残された妻自身がその後の人生を憂いなく、豊かに生きることができると考えるからです。

「死後のこと」を心配するあまりに、「生きている間」の事を軽視し、日々の生活費を切り詰めて過ごすような息が詰まる相続対策では、本末転倒です。

妻自身の死後、たとえ子どもが負担する相続税が高くなったとしても、ご主人を失ったあとの妻自身の生活を最優先に考えたほうがいい――。これは、様々な方から相続のご相談を受けるなかで、私が常に重視している方針のひとつです。

「当面の生活費がない」と告白した妻

相続に付随して発生するお金の問題としては、相続税以外にどんなものがあるのでしょうか。

特に深刻な問題が、日々の生活費です。

私の過去のお客さまで、やはりご主人を突然亡くされた方がいました。ご主人が亡くなった直後に訪問してお話をうかがったのですが、「当面の生活費がない」とおっしゃるので、私は仰天しました。

日本の紙幣
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なんでもお金のことはご主人がすべて管理していたそうで、奥さまはそもそもご主人がどこの銀行に口座を持っているのか、口座をいくつ持っているのかもわからないのだとか。もちろん奥さまは、銀行のキャッシュカードの暗証番号も知らないとのこと。ご主人が生きている間は、毎月の初めにご主人から生活費の入った封筒を手渡され、それで1カ月の家計をやりくりするという生活を、結婚当初から実に60年間の長きにわたって続けていたようです。

「だから、夫のお葬式代どころか、私の食費や光熱費をどうしたらいいのかもわからなくて」――ご主人を失った悲しみとともに、このような大きな不安を抱え、とても混乱しておられました。