日本で拳銃を買いたがるのは暴力団だけ

元自衛隊のヤクザは珍しくないが、裏社会の武器屋になって懲役刑に服するくらいなら、そのまま自衛隊にいるのが幸せだったろう。最後に見せられたのは、まるでコレクターボックスのような古めかしい木箱にしまわれた南部十四式だった。

第2次世界大戦の際、日本軍が正式採用した骨董品で、もはや使用できないのだという。木箱には拳銃本体のほか、弾丸、マガジン、消音器、木製のストックなどさまざまなアクセサリーが収納されていた。マニアなら垂涎すいぜんものだろう。事務所の組長室で、相手は組長の秘書的存在のヤクザだった。虚仮こけおどしのつもりなのか、こちらの腹を試しているのか、単に見せびらかしたかったのか、今考えてもヤクザたちがなぜ御禁制の品を披露したがるのか理解に苦しむ。

年代物の銃
写真=iStock.com/Josiah S
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取材で体験したように、暴力団と拳銃の距離は近い。というより、日本で拳銃を必要とし、買いたがるのは暴力団だけといっていい。

「拳銃のマニアは一定数いる。でも銃器マニアは入手したそれを同好の士に見せたがったり、自ら改造拳銃をつくったりはしても、ヤクザと違ってそれを使って誰かを殺そうとは思ってない。彼らは部屋で拳銃を眺め、触り、でるだけで、不特定多数に売買もしない。ネットで監視したり、モデルガン・マニアの集まりを注視したりして積極的に取締まってはいるが、それは摘発した際に評価されるからで、治安云々ではない」(退職した元警察官)

だから日本の闇武器屋は、ほぼ暴力団の専業である。

いくら金があっても信用がなければ買えない

ヤクザは殺してなんぼの世界であり、抗争事件での殺人は“仕事”と呼ばれる。仕事を貫徹するために“道具”(銃の隠語)は欠かせない。

密輸は専門的な知識と人脈が必要で誰にでもできる仕事ではないので、どうしても専門家に依頼し、そこから買う必要がある。が、専門家とはいっても、銃器売買を専業にするのは危険だ。警察や税関が目を光らせており、見つかればすぐに捕まり、重い懲役刑が科せられる。不特定多数に売るわけにはいかず、店に並べることもできない。

すべては口コミの世界で、金があっても信用のない素人は買えない。何より、たとえヤクザであっても、映画のように拳銃を日常的には携帯していない。なので、訳ありの相手か、抗争にならないと売れず、専業が成り立ちにくい。