互いに一歩踏み込むことで、次の次元の関係性に入る
以前、精神科医で筑波大学教授の斎藤環さんと対談したことがあります。斎藤さん曰く、人と直接会うという行為は、本質的に暴力的な行為だというのですね。
直接対面するということは、相手のテリトリーの中に侵入していく行為でもあるわけです。直接相手と会って話した方が交渉はまとまりやすいと言われているのは、その暴力性によって相手を屈服させているという側面があるからなのです。
だから皆さんがリモートに慣れて、人と会うのが億劫に感じるというのは、ある意味まともな感覚だということです。
そう理解した上で、人が本当に分かり合ったり共感したりするためにはやはり直接会う必要があることを認識する必要があります。
つまり人間関係とは本質的に暴力性を内在させていて、あえてお互いに一歩踏み込むことで、初めて次の次元の関係性に入ることができるのです。
例えばある男性がある女性を好きになるとします。何とか相手に自分を認識してもらい、親しくなりたい。LINEやFacebookなどで相手にアプローチし、アピールする。
そして実際に会う約束を取りつける。そう言うとなんだかスマートに聞こえるかもしれないけれど、それ自体には本質的に相手のテリトリーに入り込んでいくという暴力的な面があるでしょう。
でも、一歩踏み込んでいく暴力性がなければ、恋愛関係には発展しません。ここが難しいところでもあって、相手にその気がないのに必死に食らいつくと、ストーカーという立派な犯罪行為になります。
うんと深く付き合うのは5人でいい
若い人たちがなかなかお互いに深い関係になりにくいというのは、その暴力性に敏感だということです。ただし、恋愛と同じように、やはりお互いが理解し合うためには、その暴力性に対して、怖れず向き合う必要があると思います。
ここで重要になるのが「選択と集中」です。
周囲の誰とでも親密な関係を築くのではなく、本当に自分にとって大切で重要な人物に絞り込み、その人に対して一歩踏み込んでいくのです。私はそういう人は自分の周りに5人いれば十分だと思います。
いざとなったら心を開いて相談できる人、深刻な話を受け止めてくれる人を5人つくること。
5人なんて少なすぎないかという声が聞こえてきそうです。でも、よく考えてみてください。深く付き合える人を5人持っている人は、実はそんなにいないはずです。
その核となる5人を一人一人が持ったらどうなるでしょうか?
5人が自分の本当に信頼する人間をそれぞれ5人持っているとしたら、5×5で25人のコアなつながりができるでしょう。さらにそれぞれが5人の信頼する人物を持っていれば、25×5で125人。つまり5の累乗で深くコアな関係がつながっていくわけです。