だが、中国からの訪問客を受け入れることは、国内への感染リスクを受容することを意味する。特定の国を対象とした規制は差別につながるとの見方もあり、慎重さが求められるが、各国は水際対策の再導入の検討を迫られている。

ワシントン・ポスト紙は、過去に高い感染率が確認された実例を列挙している。12月下旬に中国を発ったイタリア便2便では、搭乗者のそれぞれ約半数と約3分の1が陽性反応を示した。1月第1週には、中国から韓国・台湾へ向かった旅行者の20%、実に1000人超の感染が確認されたという。

マスクをして空港のベンチに座っている人たち
写真=iStock.com/Robert Way
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報じられている8~9割の感染率よりは低いが、これは選択バイアスによるものだ。米シンクタンクは、有症者であれば旅行を控えると考えられることから、中国国内の感染率はこれよりも高い水準にあると指摘している。

CNNは、免疫力の低い農村部へと懸念が移ったいま、新たな変異株の出現が懸念されると指摘する。旧正月を機に変異株が発生すると確定したわけではないが、人民の大移動によりそのおそれが高まったことを受け各国は、単純に受け入れを歓迎できない状況になっている。

専門家は、検疫などの水際対策では変異株の国内流入を阻止できないと指摘する。香港大学公衆衛生学部のカレン・グレピン准教授は、CNNに対し、「現実的に言って、こうした(水際)対策が、実際に有効であることを裏付ける科学的根拠はないのです」と説明している。

2021年にオミクロン株が出現すると、各国の水際対策に反して世界に拡散した。グレピン氏は当時の対策に「ほとんど効果がなかった」と指摘し、空港での検疫はせいぜい拡散を遅らせる機能しか持たないと述べている。

中国共産党は「コロナに勝利した」と自画自賛

習近平政権が3年間固持したゼロコロナ政策は、旧正月直前という最悪のタイミングで緩和された。

中国全土で相次いだデモに気圧けおされ、習近平政権は突然のゼロコロナの終了で火消しを図った格好だ。国民は行き過ぎたロックダウンからこそ解放されたが、あまりにも杜撰ずさんな政策転換であったことは明らかだ。

英ガーディアン紙はゼロコロナの転換で、感染が「全土に野放しに拡散」したと批判している。

ところがBBCによると、中国共産党の機関紙である人民日報は対照的に、勝利宣言を出し自画自賛している始末だという。人民日報は、中国共産党が「最小の代償を払い、最大の効果を得た」と主張していると報じた。

当然これは、海外主要メディアの論調と一致しない。ゼロコロナ政策の緩和を契機に、14億人を率いてきた習政権の弱さが露呈したとの指摘すら上がっている。米FOXニュースは、国民のデモに屈する形で崩壊したゼロコロナ政策自体に、習氏の弱さが表出しているとの論調だ。