だがそんな時代は過ぎ去った。今回の危機は全く新しい時代がようやく到来することを告げている。
といっても、つい最近まで多くの人々に恐れられていた統治体制の崩壊を予言しているわけではない。
露呈した深刻な根本的欠陥は、絶対的支配をほしいままにしてきた国でさえそれを失いかねないことを再認識させる。筆者は通算20年余り中国で暮らし、中国各地を旅し、中国関連の仕事をしてきたが、中国の信用とプロパガンダがここまで低下したのは初めてだ。
天安門事件など過去の危機との違いは、中国社会で中産階級が拡大を続け優勢になっている点だ。彼らは従来よりはるかに高度な教育を受け、政府の余念のない情報統制にもかかわらず、国内外のありとあらゆる情報源からはるかに多くの情報を入手する。
中国の現在の政治体制が大規模な改革なしに持ちこたえられるか、大いに疑問だ。共産党が支配力を維持するには、有能な人材の大量流出と中産階級の経済成長の鈍化という犠牲を払うしかないのだろうか。
注視すべき点は3つ。中国がどこまで真実を受け入れるか。過ちを認められるか。そして、愛国者が大部分を占める中国市民からの批判をどこまで許容できるかだ。
国家は全知にして無謬で独立思考を認めないという「神話」が、かつてないほど揺らいでいるのは間違いない。
当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら