ファーストリテイリングの狙いとは

それによって、個々人が自らの担当分野でより高い専門能力を発揮することが目指されている。報酬の引き上げによって同社は、個々人の能力、成長意欲、ビジネスへの貢献に報いる。報酬引き上げの対象は、本社・本部、店舗など組織全体に及ぶ。経営戦略、マーケティング、財務、人事、さらには店舗の運営や接客などあらゆる分野で高いスキルを持つ“プロフェッショナル”人材を増やすことが目指されている。

報酬の改定に加え、ファーストリテイリングは事業運営体制も強化する。各国の事業運営本部が迅速に連携しあい、問題を解決してよりよいビジネスの運営、組織の在り方が目指される。それによって、ファーストリテイリングの組織では競争原理が働きやすくなるだろう。自ら能力向上に取り組み、周囲よりも高いパフォーマンスを上げた人材は評価され、より多くの報酬を得る。それによって、従業員の成長志向はさらに強まり、達成感や充実感もますだろう。

“サラリーマン文化”との決別を示している

それは、柳井氏の発言にある“サラリーマン文化”との決別といってよい。サラリーマン文化とは、過去の発想を優先し、特定の業務を、決められた方法でこなす働き方と定義できる。それに大きく影響しているのは、終身雇用と年功序列の雇用慣行だろう。経営トップが「終身雇用と年功序列の時代はおわった」と訓示しても、人事報酬体系は旧態依然という企業は多い。

背景の一つに、1990年代以降のわが国経済の長期停滞の影響は大きい。バブル崩壊後のわが国では、株式など資産の価格が急速に下落し、景気は冷え込んだ。それに加えて1990年代前半から不良債権問題も深刻化した。国内の需要はさらに低迷し、経済全体で“あつものに懲りてなますを吹く”というべき過度なリスク回避の心理は強まった。

企業はITなど成長期待の高い分野に進出するよりも、既存事業を優先した。多くの企業で新しい発想を実現して成長を目指すことは難しくなった。本邦企業の競争力は低下した。賃金は伸び悩み、人々の成長志向も弱まった。業績が拡大していないにもかかわらず雇用は守られているという考えは続いた。その結果、わが国経済全体で新しい取り組みを進める機運は高まりづらくなった。