今、公共放送として何より重視しなければいけないのは「報道」だ。

現在は、世界で極めてシビアな地政学的な変化が起きていて、地政学上の問題が経済と経営の両方にダメージを与える時代になっている。たとえばロシアや中国が引き起こしている問題は、企業や経営者がマネージできる範囲を超えている。

激変する時代において公共放送に求められるのは、世界と日本のニュースを正確かつ迅速に伝えることである。それを最優先せずエンタメを重視する放送に、公共放送を名乗る資格はない。

大相撲や高校野球よりニュースの放送を

「巨人、大鵬たいほう、卵焼き」の50年前は、相撲も国民的関心事の1つだった。しかし、今スポーツの話題になったとしても、相撲の話になることはまずない。2022年は6場所すべて優勝力士が異なる珍しい1年だったそうだが、はたして6人の力士の名前をあげられる国民がどれだけいるのか。6人どころか1人もあげられない人がほとんどだろう。

私は毎夕5時にNHKのニュースを見ているが、大相撲のシーズン中(年間90日)は報道番組はやらない。ニュースより、ニーズのない大相撲が優先されるのは「利権化」している証拠だ。しかもBSでは、十両くらいの取り組みから延々と放送をしている。お客がほとんど入っていないのに、NHKでは全国放送しているのだ。

一部のマニアしか見ていない大相撲を中継するために、NHKは日本相撲協会に高い放映権料を支払っている。受信料のことを考えれば、公共性の高いニュースを犠牲にして相撲協会を儲けさせる理由が、私にはどうしても理解できない。

さらに、NHKがかたくなに放送を続けているスポーツコンテンツがもう1つある。高校野球だ。特に夏の甲子園の中継は疑問だ。酷暑の中でプレーさせるのは球児たちの健康にも良くない。夏にやる必要性が見いだせないし、野球ファンが年々少なくなっていることは言うまでもない。

ドラマや音楽などエンターテインメント番組の在り方も、本当に公共放送に相応しいものか問い直す必要がある。

『紅白歌合戦』『大河ドラマ』『朝ドラ』。興味がなくて見ていないのでそれぞれ中身はよく知らないが、問題はクオリティーではない。たとえば紅白歌合戦、年末にかけて「今年の司会者は誰だ」「出場歌手が決まった」とプレーアップする。「NHKはCMがない」と言いながら番組の宣伝がしつこい。大河ドラマも同様で、視聴率を上げるために役者が他の番組にも出て宣伝を始める。まるで芸能番組である。民放がやればいい。

娯楽が乏しかった時代と違って、エンターテインメント番組の公共性はほとんどない。そこに無理やり公共性を見いだして、その幻を維持するために公共の電波を使って自らコマーシャルするという悪習は断ち切るべきだ。