「二番じゃいけないんですか?」

作家 阿刀田 高
1935年、東京生まれ。国立国会図書館勤務時代に執筆活動を開始。短編集『ナポレオン狂』で第81回直木賞受賞。日本ペンクラブ会長、直木賞の選考委員などを務める。

鳩山由紀夫内閣で唯一の見せ場だった「事業仕分け」。蓮舫議員の舌鋒鋭い仕分けぶりが話題を呼んだ。税金の無駄遣いをなくすという大義名分は結構だが、仕分けられるほうは哀れである。次のような応用を考えた。

「二番でいいんです。家ではいつもナンバー2ですから」

情けない調子で切り出せば、にやりとしつつ、共感を示す相手が多いだろう。たいていの男は、家では奥さんに次いで「ナンバー2」。仕分けられる側の悲哀がわかるからだ。

次は女性のセリフ。ミスや不正をとがめられ、進退窮まったときにどう言い抜けするか。

「みんな私が悪いのよ。電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、み~んな私のせい」

あからさまな開き直りだ。こうなると、もう相手は矛ほこを収めるほかない。情に訴え、その場を逃れるためのテクニックといえる。

もっとも、これを一ひねりして、不条理な笑いに変えた男性がいる。

10年以上前のこと。読売ジャイアンツが優勝を逃したとき、ジャイアンツファンとして知られる高名なクリエーターが、深刻な顔をしてぽつり。なんの関係もないのに……。

「みんな、私が悪いんです」

これには爆笑させられた。

さて、以上は変化球。相手の情に訴えかけて徐々に信頼される。そのときの本道は、相手をうまく褒めるということに尽きる。

みごとな褒め上手だったのが、作家の井上ひさしさんだ。相手がここを褒めてほしいと思うところを、一番いいタイミングで褒めることができた。

「作品の内容をよく理解して読んでいますね。そこがとても感動的でした」

私の妻が小説の朗読会を行ったときに評してくれたのが、この言葉。

妻は演出家の鴨下信一さんの指導を受けている朗読家だが、鴨下さんの教えはまさに「作品の中身をよく理解して読むことが一番大事だ」ということ。そこを褒められたのだから、嬉しくないはずはない。

井上さんとはさまざまな文学賞の選考会でご一緒したが、そういうときも「この作者はここを、こういうふうに褒められたら嬉しいだろうな」と思うようなことを述べていた。決して作品の評価に対して甘い人ではないが、作品や作家の「いいところ」をとらえて評価することの上手な人だった。

※すべて雑誌掲載当時

(面澤淳市=構成 相澤 正=撮影)
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