ロールプレーイングゲーム
現在、河津さんの妻は、認知症専門病院に入院している。
「最初の頃は、介護に慣れていないこともありましたが、妻は怒りやすかったため、地雷を踏まないようにするのが大変でした。特に2019年の大みそか前後は、一度怒り出すとずっと尾を引くので、“触らぬ神に祟りなし状態”でした。近所への配慮や嘔吐の後片付けなどに翻弄され、不眠で精神的にも肉体的にも疲弊しました。妻は、症状が進むにつれて忘れっぽくなり、怒りが継続できなくなったのが、逆にラッキーでした」
河津さんの場合、基本的には河津さん一人のワンオペ介護状態だったが、時々は妻の妹や弟夫婦の助けを借りることができた。河津さんの大学のOB会があったときは、妻を弟夫婦に預けた。また、介護で困ったり悩んだりしたときは、市の若年性認知症コーディネーターや家族会の人たち、大学病院併設の認知症センターの臨床心理士、認知症病棟の元看護婦長などに相談した。
「介護は、粛々と本人に合わせて対応していくだけなので、やりがいとか喜びといった視点を持ったことはありません。ですが、頑張りすぎないことや精神的に背負い込みすぎないことには気をつけています。うまくいかないことや、反省することもありますが、すぐに切り替えて、臨機応変に対処し、ロールプレーイングゲームのように、何か試練のようなものを乗り越える度に経験値が上がったと考えることを心がけています」
ゲームに例えるのは不謹慎と考える人もいるかもしれないが、介護を担う家族にとっては、そのくらいの遊び心があったほうが肩の力が抜けて良いかもしれない。
「親子介護と夫婦介護は違いますが、夫婦介護の場合に大切なのは、あまり遠慮しすぎないこと。自分にとって何が大事かを考えること、自分に言い訳をしないことでしょうか」
自分にとって何が大事かを考えることとは、優先順位を決めて、順位の高いものからこなしていくこと。自分に言い訳をしないこととは、逐一自分の頭で考え、決断し、納得して進んでいくということだ。河津さんは、仕事と妻の介護とのバランスに気を配ってきたと話す。
最近、街中はコロナ前のようなにぎわいを取り戻しつつあるが、妻が入院する病院ではまだ、直接の面会は解禁していないため、約2週間に一度ほどのオンライン面会が続く。
現在の河津さんは、入院中の妻のことを考えながら、自宅でワインを飲むのがささやかな楽しみだ。妻がまだ元気な頃は、2人で語り合いながら飲んでいた。
「妻はワインも飲みましたが、私が話すワインの蘊蓄を嫌いました。蘊蓄を聞きたくないと言って、焼酎を飲んでいたこともあります」
河津さんは、新型コロナ禍で旅行がしづらくなったことから、ワインで世界1周を始めたのだという。こうして一人、ゆったりとした時間を過ごすのも、介護者には必要なことだろう。
河津さんは、「keroぴょん」という名前でブログを書いている。この記事で興味を持った人は、のぞいてみてはいかがだろうか。