意味のない延命治療はなぜなくならないのか。医師の森田洋之さんは「日本では『老と死』を病院に依存する傾向があり、『社会的入院』が多数にのぼっている。病院側も病床を埋めるためにそれを容認している」という――。
※本稿は、森田洋之『日本の医療の不都合な真実』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
慢性疾患の患者の多くは自宅に帰ることが可能
世界一病床が多い日本ですが、その多くは「慢性疾患の患者さん」で占められています。
よくイメージされるような、「大きな手術や治療などで入院が必要な患者さん」は、一部に過ぎないのです。
そして私の経験上、入院している慢性疾患の患者さんの多くは「住み慣れたわが家に帰りたい」と願っています。
実はこうした患者さんの多くは、自宅に帰ることができます。
また自宅での医療・介護サービス体制さえ整えば、ご家族の負担も最大限軽くなります。
しかも自宅に帰ることができた患者さんは、多くの場合元気になります。
病院では寝たきりで意識もなく、当初は「せめて最期は自宅でお看取りしましょう」と覚悟して退院したのに、自宅に帰った途端に元気に話したりご飯を食べたりし始めた、というケースも多く経験しています。
どうしてこういうケースが見られるかと言えば、病院という空間がそもそも「治療の場所」であり、安全・安心が最優先されるため、基本的に、
・転倒が心配だから、「ベッドで横になり、安静にしていましょう」
・誤嚥や窒息が心配だから、「口で食べるのは止めて(絶食)、管から栄養を入れましょう」
という対応になってしまうことが関係します。
医療はどうしても生活を制限する方向に向かうため、こうした対応により患者さんの体力がいっそう落ちてしまうことが一因として考えられるのです。