2023年春から導入される予定の「デジタル給料支払い」。勤務先から「給与をデジタルマネーで振込できますが、どうしますか?」と聞かれたとき、どう判断すればいいか。FPの山崎俊輔さんは「キャッシュレス化のやりすぎで財布のひもがゆるくなったり、QRコード決済各社が積極的に展開するキャッシング事業に手を出してズルズルと借入残高を増やし続けたりすると、たちまち負のスパイラルに陥ることになります」と警鐘を鳴らす――。
QRコードと紙幣とコイン
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2023年度より容認されるデジタル給料支払いの落とし穴

給与の支払いにはいくつかの大原則があり、現金を一括で払うことをベースにしています。

かつては給与袋が全社員分用意されており、総務部や経理部の社員の大事な仕事のひとつが「全社員分の給与支給額を確認して袋詰めすること」でした。

全員が同額ということはありませんし、交通費の精算などをすれば端数も出ます。支給日の前日などはほとんどパニックのように仕事をしていましたし、お金の管理も難問でした。

1968年に起きた「3億円事件」も銀行の現金輸送車が襲われたわけですが、近くの工場の社員のためにボーナス用の現金が大量に運ばれていたところを狙われたものです。一説には3億円事件が給与や賞与の銀行振込シフトを加速させたとも言われます。

今はさすがに、現金払いの封筒を社員が全員持ち帰るような事務は不毛だと誰もが分かっています。最初から日払いの約束になっているようなアルバイトを除けば、ほとんどの人は給与や賞与を銀行振込でもらうようになりました。

法的には、銀行振込は「現金払い」の原則とイコールではありませんが、実質的に同等の効果が担保できることから、これをOKとしています。現実問題としては、個人にとってはそのほうが安心・確実ですし、会社・個人の双方にもメリットがあるわけです。

振込口座は法定されているので、何でもOKというわけにはいきません。例えば、証券口座に振込をしてもらうこともできますが、これは1998年9月に規制緩和されたものです。それまでは禁止だったのです(といっても、証券口座に給与を振り込みしたい人は少ないでしょうが)。

こうした給与振込先の選択肢に2023年春、デジタル給料支払いが追加されることになりそうです。もし、あなたの会社が「給与を電子(デジタル)マネー振込ができるけど、どうする?」と聞いてきたら、あなたはどう考えればいいでしょうか。

デジタルで給料が振り込まれると残高を現金化せずに使えます(現金化することも可能)。これまで資金移動業者(PayPay、楽天ペイ、ドコモ=d払い、KDDI=au PAYなど)のQRコード決済を利用する際には、チャージが必要でしたが、直接QRコードのスマホ決済アプリのアカウントに給与振込すれば、その必要もなくなります。