しかし、東スポはデジタル媒体の事業展開に際し、他のスポーツ紙と比較して大きく後れをとることになった。2019年の5月決算では純利益で約20億円近い赤字を計上してしまった。さらに総資産の簿価が約65億円程度(最盛期300億円程度)にとどまることまで公表した(2020年4月官報掲載)。
デジタル媒体の展開に本腰を入れ始めた2020年――、デジタル事業部門の売り上げは前年比の3倍以上に増えたものの部数を著しく落としリストラを強行する。まさにわずか4年間で東スポは創業史上、例のない改革と変化を迫られたのだ。そんな東スポにとって大きな障害がコンプライアンスだったという。
東スポだからこそ、細心の注意を払う
平鍋氏はいう。
「本音をいえば、今はそんなにハチャメチャにはできないですね。以前、うちにいた記者が聞いたら驚くような人事教育をいまは実践しています。とにかくコンプラははずせない。世の中の風潮が変わってきたのが10年くらい前からですね。特に2011年の3.11の後からですね。ふざけたニュースは不謹慎だといった風潮が大きく広がっていきました。
それから、ジェンダー問題を含む差別問題だとか、デリケートでなかなかニュースにし難い話や記事にできない物事がどんどん広がっていき、それに加えてコンプライアンス(法令遵守)といわれ始め、次第に過去のような報道や記事作りができなくなってきました。
東スポだからこそフェイクニュースには細心の注意を払っているんです。東スポ伝説を実践し記事にするためにもファクトチェックをしたうえで掲載します。あえて確信犯で記事を掲載するのと、まったく知らないで記事を書くのとでは意味合いが違ってくるのです。
あえて誤解を恐れず、大胆な意見をいえば、仮に明日、うちの記者に朝日新聞や読売新聞で社会面の記事を作れといっても十分に対応できると思います。東スポはそうした一線の記者を育成しているということです。社内教育には自信があります」