「わたしはこう思う」という人はボケない

現代俳句の重鎮として活躍した俳人の金子兜太氏は、1919年に生まれ、2018年に98歳で亡くなりました。

生前は、90歳を過ぎてから毎週、全国紙の俳壇の選者をつとめ、句会で各地を動きまわり、ご自分が主宰する俳句結社の投句にもすべて目を通したそうです。

ものすごいエネルギーですが、記憶もしっかりしていて古今の俳句はもちろん、結社の同人の作品でも好きな句はたちまちそらんじてしまいます。

その金子兜太氏は句会のときに、出席者の句の中で自分が好きな句、いいなと思った句をまずはっきりと「いい」といったそうです。あるいはみんなの選んだ句が出揃ったあとでも、「わたしはこの句が好き」とはっきりいったそうです。

習字をするシニアの手元
写真=iStock.com/GentleAssassin
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そういう独断的なところは若いときからあって、とにかく「いいものはいい」「悪いものは悪い」とはっきりさせました。

これは敵を作りやすい一方で、信奉者もできるということです。周囲に「いい顔」をして敵を作らない生き方というのは、一見、人間関係がうまくいくように思えますが、存在感がありません。

それからとくに好かれたり、頼られたりすることもありません。

ということは、つき合いが広いようでも希薄になってくるということです。これではサラリーマン時代の職場の人間関係と同じです。協調性を前面に出せばどうしてもそうなってしまいます。

定年後の人間関係は、広く浅くと考えなくてもいいのです。みんなとうまくやろうなんてあまり考えないでください。

それをやっても脳は退屈します。「またこういうつき合いか」と思うでしょう。

それよりむしろ、自分のいいたいことははっきり口に出して、「わかるよ」とか「わたしもそう思う」という人間とつき合ったほうが楽しいし、おたがいの刺激にもなります。

実際、80代とか90代とか、高齢になっても頭のシャンとしている人は、自分が正しいと思った考えや意見をはっきりと口にします。黙りこくってその場の結論に従うような人は、いつのまにか人づき合いが苦手になって家に閉じこもってしまいます。