市民生活に大打撃を与えるところまできている

ところが12月13日、状況が急変。ラスト・ジェネレーションに対する全国的な強制捜査が、唐突に始まった。容疑は犯罪組織結成などで、全国のラスト・ジェネレーションの拠点11カ所で、コンピューターやデータが押収され、少なくとも11人が拘束されたという(ただし、ベルリンでは1カ所もなし)。

強制捜査の主原因として挙げられたのは、シュヴェートの製油所に対する度重なる攻撃。シュヴェートというのはポーランドとの国境の町で、旧ソ連時代からの原油の精製基地だ。この町が、ソ連からパイプラインで送られてきた原油の精製と化学工業で重要な地位を占めていることは、ソ連がロシアになった後も、ウクライナ戦争が勃発した現在も変わらず、ここで生産されるガソリン、ディーゼル、重油、灯油など各種オイルや、さまざまな化学製品は、特にドイツの東部地域にとっては絶対不可欠だ。

ところが、化石燃料の利用を「狂気」と呼ぶラスト・ジェネレーションはそれを嫌い、今年5月以来、製油所での妨害工作を試み、一時的にパイプラインの機能をまひさせることにも成功していた。さすがにドイツ当局もこれは看過できなかったのか、警察が犯罪摘発にようやく重い腰を上げたらしい。

いつ「人間への攻撃」に発展するかわからない

しかし、ラスト・ジェネレーション側には反省の色なし。ツイッターで、「あなた方(警官=筆者注)は、われわれが活動をやめるとでも、本気で思っているの?」とか、「(犯罪組織の形成とは)とても危険に聞こえるが、本当の危機は隠されている。それは、われわれが直面している気候危機だ」と、自分たちの行動を完全に正当化している。

彼らによれば、「政府はわれわれを、気候の崩落、生活基盤の回復不能な破壊に導こうとして」おり、だからこそ「われわれは今の抗議行動を続ける。われわれはそれができる最後の世代である」。まさに宣戦布告だ。

ドイツでは1960年代の後半に始まった極左の運動が次第にエスカレートし、ドイツ赤軍が本格的なテロを始めた。その頂点は70~71年で、国内のあちこちで爆弾が炸裂し、銀行が襲撃され、警官が殺され、政治家や資本家が誘拐、あるいは暗殺され、大資本の企業で働いているという理由だけで、ごく普通の従業員までが無残にも巻き添えになった。

そんな恐怖の時代があったことを、今の若者たちは思い出すこともないが、当時ドイツ中を恐怖に陥れたこのドイツ赤軍のテロリストたちさえ、最初から殺人をし、ハイジャックをしていたわけではない。しかし、器物の破壊は、いつしか人間への攻撃へと変わっていった。

ラスト・ジェネレーションについて、私たちは今後、まだまだ多くのニュースを聞くことになると思う。

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