無理に引き離そうとすると手が血だらけに…
ただ、接着剤作戦に対しては、駆けつけた警官も対応が容易ではない。無理やり引っ張ると、活動家の手の皮が破れて血だらけになり、傷害罪で訴えられる可能性もある(ベルリンで、ドライバーが車から降りて、目の前に座り込んでいる活動家を横に移動させようとして、傷害罪で訴えられるということが実際に起こった)。民主国家では、相手が活動家であれ、殺人犯であれ、万人の人権を守らなければならない。そこで、中和剤をハケで塗りながら丁寧に剝がしていくことになる。
蛇足ながら、フランス警察は活動家の手にはそれほど気を使わず、交通の障害になっている人間は、障害物と同様に撤去されるため、かなり悲惨なことになるという。フランスの警察がドイツよりずっと強権的であることは有名で、デモ隊が暴力を振るい始めると、機動隊のほうも本気で反撃する。
それに比してドイツは、警官がデモ隊に殴られてもOKだが、デモ隊が警官に殴られると大騒ぎになるお国柄だ。その差が、今、ラスト・ジェネレーションの扱いにおいても如実に表れているらしく、これまでは活動家は何をしようが、少なくともドイツでは、わずかな罰金刑しか科されることはなかった。
「抗議活動が人命救助を遅らせた」と猛批判
ところが10月25日、事件が起きた。ベルリンで、自転車で走行中の60代の女性がコンクリートミキサーに巻き込まれ、重症のまま車体の下に挟まってしまった。すぐに救急車とパトカーとコンクリートミキサーを持ち上げるための特殊車輌の出動が要請されたが、間の悪いことにこの日、ラスト・ジェネレーションの道路封鎖で大渋滞が起こっており、緊急車両は現場へなかなか到達できず、救出が大幅に遅れた。
これに対するラスト・ジェネレーション側の事後の声明が、「われわれは、救助の遅延によってその女性の健康状態が悪化したのではないことを心から希望する」「われわれの抗議活動における最大の掟は、すべての参加者の安全が保障されることである」というものだったので、皆が耳を疑った。彼らは、「救助の遅延」がなぜ起こったのかに一切触れていないし、もちろん謝ってもいない。しかも、最大の掟である「参加者の安全の保証」というのは、ひょっとして自分たちのこと⁈
数日後、その女性が亡くなり、積もり積もっていた市民の怒りが爆発した。「緊急車両の通行妨害、しかも死者まで出れば、これは立派な違法行為である」。CDU/CSU(キリスト教民主/社会同盟)の議員の中からは、これらの行為は罰金刑ではなく、懲役刑にすべきだという声まで上がった。