「コロナぐらいで仕事を休むな! 仕事しろ」という風潮

――毎日PCR検査をしなきゃいけないとか中国コロナ対策に関する愚痴はうかがってきましたが、コロナ対策の緩和後は一転して、どこでコロナに感染するかわからなくて恐いという話に変わりましたね。

私の家族も感染しました。私が感染するのも時間の問題でしょう。大学もそうですし、街中にも「コロナぐらいで仕事を休むな! 仕事しろ」と言う風潮が蔓延していまして。感染者がいたるところを歩き回っている状況です。コロナは風邪、弱毒化したからインフルエンザよりも恐くないという話になっているのですが、「いや、インフルエンザでも家で寝るのがマナー」と思うのが普通でしょう。

――コロナの可能性が1%でもあるやつは全部隔離施設に放り込むという対策から、すさまじい方向転換ですね。中国政府はなぜいきなりの政策転換に踏み切ったのでしょう?

「経済への打撃」「市民の不満の高まり」、「ウイルスの変異」という複数の要因が重なった結果とみています。なにかが一つが決め手ではなく、複数の要因が複合した結果です。麻雀でいう数え役満といいますか。

いままでの緩和政策とは“本気度”が違う

――経済への打撃については、米紙ウォールストリートジャーナルは大手EMS(電子機器受託製造)企業フォックスコンの創業者テリー・ゴウが、iPhone組み立てを担う河南省鄭州市工場での感染拡大を受けて「このままではやばい」と中国共産党指導部に書簡を送ったことが対策緩和の要因になったと報じています。一方で「白紙革命」に象徴される市民の不満が政策転換の要因になったとの見方も。

トゥチェンにあるフォックスコン・テクノロジー・グループ本社
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フォックスコン工場の混乱が報じられた後、11月11日に20カ条の緩和策が発表されました。ただ、笛吹けども踊らずというか、実態はほとんど変わらなかったのです。むしろ緩和策を受けてPCR検査場を削減した結果、残った場所に人が殺到して大混乱、仕方なく検査場の数を再拡大といったチグハグな結果で終わりました。

白紙革命後の転換はまったく異なります。発表された緩和策がちゃんと実行されているからです。その意味では抗議活動の影響が大きかったのではないか、と。

社会の雰囲気が緩かった胡錦濤政権時代と比べると、今の学生たちは政治的な発言に消極的と言われます。私の学生たちを見ていても確かに「おとなしい」。そうした学生たちが声を上げたことには驚きましたし、ゼロコロナ転換という結果をもたらした意義は大きいと感じています。今後の中国社会に少なからぬ影響を残すのではないでしょうか。