今年最大のヒットドラマとなった『silent』。本作が連続ドラマデビュー作だという脚本家・生方美久氏は、意外にも海外ドラマにはそれほど興味がなく、脚本を書く上でもとくに意識していないという。次代のテレビドラマを担う新鋭脚本家が日本の地上波ドラマにこだわる理由とは――(後編)。

個々の背景をきちんと掘り下げる

――本作『silent』では、聴覚障害や手話が物語の大切な要素となっています。桃野奈々(夏帆)や佐倉想(目黒蓮)の姿を通して、ろう者と中途失聴者の抱える問題の違いや、それぞれのリアルな心情が描かれていましたが、どんなリサーチや勉強をされたんですか?

【生方美久(以下、生方)】もちろん自分で本を読んだり、ろう者の先生から学べる手話教室で手話を勉強したりはしたのですが、実際に脚本を書く上で参考になったのが、ろう者や中途失聴者の方が発信しているSNSやYouTubeでした。耳が聞こえないことで経験する生活の「あるある」みたいなものを投稿している方が結構いらっしゃって、それはすごく参考にさせていただきました。

――6話・7話では奈々と想の関係にスポットを当て、さらに8話では手話教室講師の春尾正輝(風間俊介)と奈々の過去を回想することで、聴覚障害者が直面する差別や不利益、健聴者の無自覚な優越意識や特権まで踏み込んで描いていました。障害をラブストーリーを盛り上げるための安易なツールにしないようにという意識はされていましたか?

【生方】そうですね。想が中途失聴者であることや、奈々がろう者であることは、決して青羽紬(川口春奈)の恋を盛り上げたり、誰かとの関係性を描いたりするための要素ではないので。個々のキャラクターが持っている背景をきちんと掘り下げるために必要なことを書いただけ、という感覚です。

最終話で紬(川口春奈)はどんな道を選ぶのか。
写真提供=フジテレビ
最終話で紬(川口春奈)はどんな道を選ぶのか。

「#silent」でエゴサするのを途中でやめた

――オンエアで役者の演技を見てキャラクターが変わったり、視聴者からの反響を見て展開を変えたりしたところはありますか?

【生方】クランクインした最初の数日は撮影現場に行って、セットの雰囲気や、役者さんが演技しているのを実際に見せてもらってイメージを膨らませました。ただ、それによって具体的に何かキャラクターや関係性が変わったというわけではないですね。

視聴者のみなさんの反響はもちろん気になりますし、最初は「#silent」で検索をしていたんですが、自分が書きたいと決めたものを最後までブレずに書き切りたかったので、途中から「脱稿するまでエゴサはしない」と決めて、影響を受けないようにしていました。

――役者の演技や、映像の演出で、自分が意図していた以上のシーンになったなと感動したところはありますか?

【生方】ベタなところですが、やはり1話のラストシーン(想が久しぶりに再会した紬に手話で思いをまくし立てる場面)ですね。脚本上では想の母・律子(篠原涼子)や、戸川湊斗(鈴鹿央士)をカットバック(複数のシーンを交互に入れ込むこと)させていました。そうしないと長くて間伸びしてしまうかなと思っていたんです。

ところが、実際に編集してみたらここの2人の流れは一気に見せたほうがいいということになったようで。お芝居を見ると確かに納得で、映像的には緊張が途切れないように続けたほうがいいんだな、と勉強になりましたね。