悪役が登場しないワケ

――他にも『silent』を書く上で、生方さんが密かにこだわっていたポイントがあれば教えてください。

【生方】根が悪いやつは登場させない、ということですね。悪役がいると物語を動かしやすくて便利なのですが、このドラマでは“いい人たちが集まっていても歪みは生じる”というリアルを描きたかったんです。

メインキャラはみんな優しくて他人思いで、自分の言動を悔やんで省みる人たちですが、そんないい人でも人間関係のことになるとちょっと間違えてしまうのが人間味です。見ていてその“間違い”にモヤモヤした方もいると思いますが、そのモヤモヤこそが人間関係のリアルだと思っていただきたいです。

『silent』で連続ドラマデビューを果たした脚本家の生方美久氏。
撮影=齋藤葵
『silent』で連続ドラマデビューを果たした脚本家の生方美久氏。

日本語ならではの言葉の美しさやあやうさに惹かれる

――『silent』は久々に社会現象となるほどのドラマになりましたが、近年はNetflixやAmazon Prime Videoなどのサブスクサービスを通じて、世界的にヒットしている海外ドラマとも競合しなくてはなりません。こうした配信コンテンツの存在を意識することはありますか?

【生方】実はあんまり意識していなくて……。配信コンテンツに勝とうとか、海外ドラマに劣らないものを作らなきゃ、みたいなことを考えたことがないんですよね。というのも、私自身が海外ドラマにそれほど興味がなくて、視聴者として普通に日本の地上波のテレビドラマが大好きなんですよ。

もちろん作り手としては、海外にも通用するコンテンツ作りとかを考えなきゃいけないんでしょうけど。私としては「日本のドラマ面白いじゃん」という感覚なんです。

――なるほど。では、海外ドラマに引けを取らない日本のドラマの良さや面白さはどんなところだと思いますか?

【生方】私の場合、演出や映像に関して日本のものが好きというよりも、日本語が好きということに尽きます。ドラマや映画の中に、日本語ならではの言葉の美しさやあやうさ、言葉遊びのできる面白さが盛り込まれていると、とても惹かれますね。だから、言語や文化が異なる時点で、海外の作品と比較したり優劣をつけたりするのは難しいです。