いちばん長生きなのはBMI25を超えた「太り気味」の人

2008年4月から厚生労働省は、メタボかどうかをチェックする特定健康診査や特定保健指導を国民に義務付けている。一見、生活習慣病を未然に防ぐために必要な施策に思えるかもしれないが、メタボを恐れるあまり、根拠のない「やせ願望」が中高年に広まっていることに、私は違和感を持っている。以下のような問題があるからだ。

「メタボ」が中高年の健康情報を席巻するとともに、BMIという数値が広く知られるようになった。これは体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数値で、医者はWHO(世界保健機関)の基準で「普通」となる18.5〜25未満に収まるようにと指導する。しかし、世界中でどんな統計を取っても、BMI25を少し超えたあたりがいちばん長生きなのだ。

2006年、アメリカで29年間にわたって追跡した国民健康・栄養調査の結果が発表されている。これによると、いちばん長生きなのは「太り気味」とされるBMI25〜29.9で、18.5未満の「やせ型」の死亡率はその2.5倍も高かったのだ。

「健康のためにダイエットしないと」はナンセンス

日本でも2009年、厚生労働省の補助金を受けたある研究結果が発表された。40歳の時点での平均余命を見ると、もっとも平均余命が長かったのは、男女ともにBMI25〜30である。平均余命は男性で41.6年、女性は48.1年だった。逆にもっとも短かったのはBMI18.5未満で、平均余命は男性で34.5年、女性で41.8年と、7年ほどの差がついたのだ。

BMI25〜30は、身長が170cmの男性なら体重72〜87kgに当たる。昨今なら完全にメタボと言われてしまう体型だ。日本では「太りすぎ」という分類にされているが、実はもっとも長寿だったのだ。また「普通」「肥満」とも平均余命にほとんど差はつかなかったのに、「やせ」だけは目立って平均余命が短いのだ。

中高年の場合、多少太っていてもむしろ長生きできる。これは統計的に明らかになっているのだから、過激なダイエットに走る必要などまったくない。「太り気味だから、健康のためにダイエットしないと」と不安に思うのはナンセンスだということだ。

メタボブームでやせ願望が非常に強くなってしまったが、やせているのは栄養状態が悪いことを意味している。日本人が短命だったのは栄養状態が悪かったころだと思い起こしてみると、単純にやせればいいというわけではないとわかるだろう。

「やせると長生きできる」となると、もうまったくの嘘だ。低栄養のほうがずっと危険で、やせていることはリスクになるのである。