デモに参加した学生への厳しい仕打ち
筆者の大学院時代の同期で北京在住の清華大学OBもこのように語る。
「清華大学は習近平総書記の母校です。そこでもデモがあり、すぐに鎮静化させるため、学生たちは実家に移動させられました。通話履歴を追跡されたり、スマホのアプリを削除させられたりした学生もいたそうです。今回は封じ込めに成功しても、抑圧されてきたことへの不満は、いつかどこかで大きな波になるような気がします」
今回の抗議行動は、習近平の強権政治に反発し、「抑圧」を自分の身に降りかかる問題としてとらえる若者を大量に生んだ。このことは、習近平指導部にとっては大きな火種となる。
為政者の中には、国内で不満が渦巻けば、その矛先を外国へ向けさせようと小賢しい手を使う人間もいる。中国で言えば、日米との関係、そして悲願の台湾統一へと動く時期やその手法にも影響を及ぼしかねない懸念もある。
熾烈な就職競争、失業手当で食いつなぐ日々
もう1つ、「白紙運動」の要因や意義として重要なのが、「将来への不安」の増幅である。
中国国家統計局が発表した16~24歳の若年失業率は、2022年7月、実に19.9%と過去最多を更新した。5人に1人が職を得られていないのだ。25~59歳の失業率が5%程度であるのと比べれば、若年層の失業率は突出して高い。
中国では、16~24歳人口が今後10年程度、増え続ける見通しだ。2015年に1人っ子政策が廃止された影響でその先も増加する可能性がある。
それと並行して大学卒業者の数も増え続けていて、2022年に初めて1000万人台を記録した。そうなると高学歴の若者でも就活戦線は熾烈な競争になる。
それに追い打ちをかけているのが新型コロナウイルスの感染拡大と習近平による失政だ。
中国では、大学卒業者の4分の1がIT(情報技術)業界への就職を希望していると言われる。
ところが、IT業界は、「ゼロコロナ」政策で景気が後退していることに加え、習近平が掲げた「共同富裕」に伴う規制強化によって業績が悪化し、人員削減を進めている企業が多い。
若者たちは、仮に就職できたとしても解雇されるケースが多く、平均賃金よりはるかに少ない失業手当でどうにか食つなぐ日々を余儀なくされる。つまり、若者たちだけが憂き目に遭う状況が、習近平の政策によって固定化されつつあるのだ。