地味にコツコツやる人こそが、職場の常識を変える

でも、既存の常識は周囲が思い込んでいる幻想ですから、それを変えていくのは、そもそもとても困難なのです。みなさんのなかにも、職場の何かの常識を変えようとして周りの賛同が得られず、「なぜみんなは変わろうとしないの⁉」とイライラした経験がある方もいるかもしれません。でもそれは周囲からしたら、「長年やっていることだから」「みんなやっていることだから」という当たり前すぎる常識なので、変えるという発想がないわけです。

どうやったら、この常識を変えられるのでしょうか。もちろん社長であればやりやすいわけですが、みなさんの多くは社長ではありません。そこで大事なのは、単純ではありますが、「とにかくコツコツと変革活動を続けて、次第に仲間を巻き込み、ムーブメントをつくっていくこと」です。ムーブメントも、経営学の研究範囲なのです。

実際、「変革に重要なのは、スーパーヒーローではなく、日々の地道な行動の積み重ねである」という研究結果が示されているんですよ。

僕の周りでそれを実現した代表格の1つは、元パナソニック社員の濱松誠さんが起こしたムーブメントです。「組織の壁を乗り越え、パナソニックをよくしたい」という思いから、濱松さんは2012年に会社横断の有志の会「One Panasonic」を設立しました。さまざまなイベントを開くうち、活動はやがて経営層を巻き込んだものにまでなりました。さらに今度は、他の大企業の同世代と2016年に、大企業の若手をつなぐ「One Japan」を発足。One Japanはいまや大きなムーブメントになっています。

プロジェクターの横に立ち、プレゼンする女性
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです

社会レベルでムーブメントをつくってきたのが、病児保育事業を手掛ける認定NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さん。駒崎さんは内閣府の「子ども・子育て会議」に委員として参加するなど、政策提言活動を地道に展開。政治家とも密に交流します。その結果、小規模認可保育所が国の認可事業となるきっかけをつくりました。地道な行動により、「子どもの預け先がないから働けない」という母親たちの世界の常識を、見事に壊したわけですね。

楽しくやることが何よりも大事

もう一点、このような活動での僕からのオススメは、「とにかく楽しくやること」です。楽しくやるのはとても大事です。

さわぐちけいすけ、入山章栄『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』(日経BP)
さわぐちけいすけ、入山章栄『経営理論をガチであてはめてみたら自分のちょっとした努力って間違ってなかった』(日経BP)

歯を食いしばり、血まなこになって「常識は幻想です!」と叫んでも人は近寄ってきません。楽しく続けていれば、「なんだか面白そうなことをしているな」と気になった周りの人たちが、自然に集まります。賛同者の輪が広がってくると、やがてどこかのタイミングで潮目が変わるときが来ます。そして最初は反対していた人も、「実は私もずっと同じことを考えてたんだよ」などと言い出したりするのです(笑)。

これまでの世の中も、コツコツと変革を続けた人がやがて多くの人を巻き込んで、変革のムーブメントを生んできました。社会変革のような大きなものでなくても、まずはみなさんの職場の周りなどで、変な常識をコツコツと変えてみてください。

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