今日の帰り道からできる新習慣

僕の友人で、シリコンバレーでも活躍する著名なベンチャーキャピタリストの伊佐山元さんを、早稲田大学ビジネススクールの授業に講師で呼んだことがあります。そこで社会人大学院生から「どうしたら、伊佐山さんのようになれるんですか」と訊かれて答えた彼の一言が、ふるっていました。それは、「君、今日これから家まで帰るでしょ。降りる駅を1つ変えなよ」というものだったんです。

駅の改札を通る人たち
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです

大きな変化は誰でも怖いですが、1つ手前の駅で降りるくらいは誰でもできるでしょう。でもそうやって自分に小さな変化を与えれば、「こんなお店があるんだ」「ここを曲がっても家に帰れるんだ」などと、発見があるはず。日々小さな変化を経験してルーティン化すれば、やがて漢方薬が効いてポカポカするように、変化に慣れてくるわけです。そしていつかは伊佐山さんのように、大きなチャレンジができるかもしれません。

ちなみに僕の他のオススメは、「週に1度、なじみのないジャンルの本を読む」「月に1度、新しいスマホアプリを使う」などです。まずは、こんなものでもいいんですよ。ぜひなじみのない分野の本を、月に1度でも、読んでみてはどうでしょうか。そんな感じで、この本をお友達に紹介してくれてもうれしいです!

常識は幻想にすぎない

次に紹介するのはIT企業から伝統のある大企業に出向してきた女性の話です。彼女にとって、新しい職場は「謎の常識」だらけだったようです。常識を覆すべく上司に提案してみましたが、やはり最初は断られます。でもその女性が素晴らしいのは、今度は水面下でコツコツと啓蒙活動をしていったことです。やがて、それが上司も動かします。

経営学では彼女のような人を、インスティテューショナル・アントレプレナー(Institutional Entrepreneur)と呼びます。イェール大学の世界的な社会学者であるポール・ディマジオがある論文で言及して以来、注目を浴びている概念です(*1)

聞き慣れない言葉ですが、そんなに難しいものではありません。ポイントは、「常識」です。常識とは我々の思考をラクにするための幻想にすぎません。ただ、同じ業界や職場にいる人は同質化する傾向があるので、放っておくとよく分からない常識だらけになるのです。それを「おかしくないですか」「時代に合ってないですよね」などと示しながら変革していくのが、インスティテューショナル・アントレプレナーです。

*1 DiMaggio, P. 1988. Interest and agency in institutional theory, in Institutional Patterns and Culture. L. Zucker (ed.), Cambridge, MA: Ballinger Publishing Company: 3–22.