ファシズムの本質には「喜び」がある
そもそもビッグテックの支配は、ステレオタイプ的に言われるような「独裁者が人びとを弾圧し強権で支配している」のとはまったく違う。なぜなら現代のテックの利用者は、喜んでテックを利用しているからだ。言ってみれば、古代のローマ帝国の有名な「パンとサーカス」に近い。これは、無償で与えられるパン(食事)とサーカス(娯楽)によってローマの人びとは満足し、政治的な関心を薄れさせられているということを指している。
「支配と隷従」は、必ずしも弾圧や抑圧によって引き起こされるのではない。それは二十世紀のファシズムを考えればわかる。全体主義とも呼ばれるファシズムというと、だれもがナチスドイツを思い出すだろう。しかし、ナチスは決して人びとを抑圧し強制しているだけではなかった。どちらかと言えばドイツ国民がナチスに熱狂し、そして陶酔していたのである。ファシズムの本質には「喜び」があるのだ。
「パンとサーカス」もビッグテックも、喜びがあるから人びとは受け入れるのである。くわえてビッグテック支配には、もうひとつ強力なポイントがある。それは「ネットワーク効果」というものである。ネットワーク効果とは、同じサービスを使っている人が増えれば増えるほど、そのサービスを使うメリットが高まることを指す経済用語である。
周囲と同じサービスを使わないと取り残される時代
たとえば周囲の人たちがみなLINEを使って連絡を取り合っているのなら、自分もLINEを使わざるを得ない。そうしないとみんなと連絡が取れなくなってしまう。わざわざあなたひとりのために音声電話してきてくれる人は、一度ぐらいならいるかもしれないが、「毎回電話でお願い」と頼んでいたらだんだんと仲間はずれになるだけだろう。
マイクロソフトのウィンドウズマシンやアップルのマックを使っていれば、さまざまなアプリケーションソフトが使えて、使い方の情報もグーグルで検索すればすぐに見つかる。どこかの国の聞いたことがない企業が開発した独自OSをパソコンに組み込んでいたら、アプリの数は少ないし情報もほとんどない。だからみながウィンドウズやマックを使うようになる。これがネットワーク効果である。
OSだけでなくSNSやメッセンジャーなどさまざまなウェブのサービスには、このネットワーク効果が強力に働く。いったんひとつのサービスを使いはじめたら、他のサービスには移るのが難しくなる。このネットワーク効果を利用して、ビッグテックは自社の支配をさらに強めているのだ。