「長時間労働のせいで男は家事育児ができない」説は本当か
【澁谷】男性性をめぐる議論では、定型化した言い方が今でも幅を利かせていると思うんですね。たとえば、ケア責任が女性に偏っている問題については、長時間労働のせいで、ケアを担いたくてもできないといった台詞が出てきます。それに対して平山さんは、そういう言い方はそろそろやめたほうがいいと仰っていました。なぜ、やめたほうがいいのでしょうか?
【平山】これには問題が二つあって、一つは、たった一つの要因で説明するという単純化に陥っているからです。家事育児の分担をめぐる話になると、長時間労働のせいで男性はやりたくてもやれない、で終わってしまいがちになる。これは、立場の違いを超えて見られる傾向です。しかし、データを見る限り、男性は労働時間が減っても、家事育児の時間が必ずしも増えるわけではない。
たとえば、総務省が行った「平成28年社会生活基本調査」の、独立していない子どものいる世帯のデータを見てみると、それがわかります。子どものいる男性が、仕事にかける1日あたりの平均時間と、家事や育児にかける平均時間を、都道府県ごとに分けて見ると、少なくとも前者には明らかな地域差が見られる。仕事にかける時間は、長い県と短い県では平均50分ほど、つまり1時間弱、違いがあります。
では、仕事の時間が減った分、家事をもうちょっとやろうか、子どものケアにあてようか、となるかというと、そうはなっていないようで。なぜなら家事の時間も育児の時間も、どちらも1日あたり20分前後で、こちらは都道府県のあいだで差がほとんど見られないからです。ここから示唆されているのは「長時間労働のせいで、男性はやりたくてもやれない」ではない。むしろ、「労働時間にかかわらず、やらない男性はやらない」ということでしょう。
男性は女性の3倍も余暇を楽しんでいる
【平山】では、子どものいる男性は、何に時間を使っているのか。余暇のようです。NHK放送文化研究所の「2015年国民生活時間調査」の結果を見ると、育児中の人が多いと思われる30~40代の休日の余暇時間、たとえば、スマホやパソコンでゲームや趣味に興じる時間の男女差は、大きいです。調査では「趣味・娯楽・教養のためのインターネット」の時間となっていますが、30~40代の女性は、日曜日でも30分前後しかスマホやパソコンで好きなことをしていない。でも、男性たちは女性の3倍以上もの時間、遊べている。女性が自分の余暇を削ってでも、家庭内の無償労働に従事せざるをえなくなる一方で、男性は余暇のための時間をちゃんと確保している。そういう非対称性が垣間見えます。
もちろん、長時間労働を前提とするような、現在の就業システムは問題です。それは女性にとっても問題です。したがって今の体制は、変える必要がある。しかし、いま紹介したデータを見れば、現在の就業システムが、男性の行動に与える影響を過大視していることがわかりますよね。「長時間労働のせいで、やりたくてもできない」だけで議論するのは、適切ではないと思います。
【清田】「性役割の乱用」「責任の外部化」というお話がありましたが、「やりたくてもできない」という構図もまさにそれですね……。自分も「諸悪の根源は長時間労働!」みたいに考えていた部分が正直あるので、データの重要性を痛感しました。