パンダ、今後も外交に使えるかの曲がり角に立つ

――日本ではよく、中国の外交姿勢について「したたかな中国」という認識が持たれがちです。しかし、私は個人的にはやや違和感があるんです。

【家永】といいますと?

――中国は戦中期(中華民国)にアメリカの協力を取り付けたり、1970年代に対日・対米国交正常化を実現したりと、自国の国力が相対的に弱い時期には「したたか」なところがあると思います。

しかし、自分たちの強さを自覚したり、まだ弱い時期でも格下だと思った相手に対してだったりすると、非常に「雑」に振る舞う印象がある。鄧小平時代の中越戦争ですとか、西側諸国に対する近年のやけにケンカ越しの外交姿勢(戦狼外交)なんかが代表的です。

【家永】確かにそういう部分はある気もします。仮にその説にもとづいて考えると、今後の中国はパンダをあちこちの国にゴリ押しで配りはじめるものの、相手国のランニングコストがかさんで突き返されるといった事態が増えていくかも。

――カンボジアやナイジェリアあたりにパンダを贈ったものの、現地では難しくて飼えませんでしたと。パンダが、お祭りの金魚すくいですくった金魚みたいになるストーリーもイメージしてしまいますね。

家永真幸『中国パンダ外交史』(講談社選書メチエ)
家永真幸『中国パンダ外交史』(講談社選書メチエ)

【家永】むしろ、中国政府が威信にかけてパンダのためにお金を持ち出し、管理せざるを得なくなるシナリオもありそうです。

従来、パンダは国外からお金を持ってきてくれる動物であり、だからこそ中国人はパンダの国際社会での人気についても、完全に肯定的にとらえてきた。それが、海外にレンタルしても中国のお金を食べ続けるスネカジリ動物……ということになると、中国世論のパンダに対する姿勢もやがて変わってくるかもしれません。

中国当局としては、外にどうやって中国をアピールするかということのほかに、中国の民の自尊心とのバランスも上手に取っていくことが、今後のパンダ外交で重要なポイントになるのではないでしょうか。

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