パンダ、外交上で活用する都合がよすぎる

――世界において、パンダ以外で、パンダと似たような外交的役割を担い得る動物はありますか?

【家永】中国にとってのパンダの外交的な有用性を構成する要素を考えると、それらを全部兼ね備えた動物はほかにはないですね。まず、「かわいい珍獣」なら、たとえばオーストラリアのコアラやカンガルーも該当しますが、パンダの場合は国際的に保護が必要な「絶滅危惧種」という要素も加わります。そして、「生息地が中国である」という要素も重要です。

――かわいさだけならばコアラもライバルですが、オーストラリアはその国家のあり方が西側諸国と相容れないわけではないですものね。中国の動物であるからこそ、外交に利用される。

【家永】ええ。やはりパンダは特殊なんです。種の保存や生物の多様性のシンボルであると同時に、かわいい。しかも送り出し側にも受け入れ側にも経済的な利益があり、かつ中国の国内にしか生息していない。それらを合わせ技でおこなえるのはパンダしかいません。

北京五輪開催を記念して北京動物園にはパンダの特別展示施設が設けられた。
撮影=家永真幸
北京五輪開催を記念して北京動物園にはパンダの特別展示施設が設けられた。2008年8月1日撮影。

パンダ、「国家による管理」が正当化されている

――パンダは中国にとって最強のソフトパワーですが、よく考えてみると、中国はそれ以外のソフトパワー外交がそれほど上手ではない印象です。たとえば中国系テックは、TikTokやWeChatのようなソフトも、ファーウェイのスマホや基地局のようなハードも、いまや西側社会から安全保障面での疑念を抱かれ排除されています。ドラマや映画・音楽もいいものが多くあるとはいえ、韓流ほどには世界の人の心をとろかしてはいない。中国は今後、パンダに代わるカードを準備できるでしょうか?

【家永】パンダが重視される時代はしばらく続くでしょう。中国の外交白書には毎年、各国関係の一覧が出るのですが、パンダ協力には必ず言及があります。パンダを送るかどうかは、外交的に重要なことなんですね。

見逃せないのは、パンダは人間がきちんと管理して大事に育てることが適切であると国際社会で認知されている点です。すなわち、「国家による管理」が正当化される領域なんですよ。

――なるほど。最近の中国は「管理」大好きですからね。

【家永】映画や音楽のような文化的なコンテンツは、創作者が自由な発想で物事を生み出す環境があったほうが、国際的に評価されるものができやすい。なので、実は中国のような国にとっての対外プロパガンダの道具としては、必ずしも使いやすくないのです。

でも、パンダの場合は、いかに科学的にきちんとコントロールできているかが重要になる。図らずして、中国の魅力を発信するのに非常に適した存在になっています。