転職後の“仕事の曖昧さ”に悩む中高年

中高年層に独特の困難を一言でいえば、転職後の仕事の「曖昧さ」だ。パーソル総合研究所の研究では、中高年層の転職者の多くが、入社後3カ月経っても「仕事内容や責任範囲が明確に理解できていない」人が多いということが分かっている(図表1)。

【図表】仕事内容と責任範囲の明文化・理解度(年代別)
出所=パーソル総合研究所・中原淳「転職行動に関する意識・実態調査」

人は、「何をやればいいのかわからない」状態では、仕事の成果をなかなか出すことができない。自分が担う仕事の内容や責任範囲についての情報を十分にも持っていないこうした状況は、学術的には「役割曖昧性」と呼ばれてきた。職場における役割が明確になっていないまま働くことは、仕事の満足度やパフォーマンスなどに負の影響を与えることが過去の研究でも指摘されている。パーソル総合研究所の調査でも、この「役割曖昧性」が、やはり転職者が組織や仕事に馴染むことを妨げていた。

そもそも仕事が曖昧になりやすい「ミッション型」採用

中高年層に「役割曖昧性」が生じやすい理由は、企業の採用活動の在り方と関係があるだろう。企業にとって、若年層向けの中途採用は、いわば「欠員補充」型。既存のビジネスを回すために必要な人員を補充するケースが大半だ。

しかし、40代以上になると中途採用は「ミッション型」になる。経験豊富な中高年層の採用は、組織にとって戦略的なポジションを任されるケースが多くなり、より幅広い業務や新しい仕事が求められるようになる。

また、組織の変革や事業の転換といった、まだ社内で誰もやったことのないミッションを、外部の経験によって補おうとすることも多い。必定、新しく複雑なミッションを目的とするので事前に転職後の仕事内容を具体的に示すことは難しい。具体的なプロセスそのものを外部調達するのが採用側の狙いだからだ。こうして中高年層の転職は、転職者本人にとってすれば「曖昧さ」の余地を大きく残すものになってしまう。