中高年こそ職場内のサポートが不可欠
このような中高年層の転職における「役割曖昧性」を緩和するには、求人情報の正確さや面接時のコミュニケーションはもちろんのこと、転職後も職場内におけるサポートが欠かせない。パーソル総合研究所の研究でも、周囲にいる人から業務に関するアドバイスや指導といったサポートを受けている人は、入社後にこの「役割曖昧性」をうまく乗り越えて活躍している様子がうかがえた。
さらにもう一つ、気をつけなければいけない落とし穴がある。
中高年層は、それまでに培った仕事経験やスキルがあり、転職後も「即戦力になりたい」という想いや自負が強いことも多い。しかし、中高年本人の即戦力への期待が、そうした周囲からのサポートを受けにくさにつながってしまうことがあるのだ。
パーソル総合研究所の調査では、「自分のスキル・技術が入社してすぐに活かせる」と感じている人ほど、同僚からの支援を受けておらず、あるいは「入社してすぐに実力を発揮しなければいけない」と感じている人ほど、上司からの支援を受けられていない傾向が見られた。さらに、その傾向は特に、同じ職種に転職した40代に強く見られる。
つまり、40代転職者自身の「即戦力になれる/なりたい」、「同じような仕事内容だから、すぐに活躍できる」という期待感はむしろ、周りからのサポートを求めない、受けられないことにつながるリスクがあるのだ。
前の職場のやり方をいかに「手放すか」
転職後には、これまでの仕事のやり方がそのまま通用することはほとんどない。
大概の人は、職場においてさまざまな行動のチューニングを行い、業務や組織に慣れていく。過去のやり方を捨て、新しいやり方に変えていくこのようなプロセスは、「学習棄却(アンラーニング)」と呼ばれる。
転職者は、人間関係の築き方から、毎日の働き方や学びの習慣まで、広い範囲で細かな学習棄却を行い、そうした行動変容が入社後のオンボーディングを促進させる。
しかし、図表2のデータを見ると、中高年の転職者になるほど、この学習棄却ができていない。これまでの長い経験から学んだことを「捨てる」というのは一種の痛みを伴う。それ故、なかなか過去の学びを「手放せない」人が中高年層には増えているのだ。
実際に、転職後の中高年層でしばしば目にするのは職場の「出羽守」になってしまう人たちだ。「前にいた会社では」とか「前職では」というように、転職前の会社でのやり方を何かにつけて引き合いに出し、新たな職場でのやり方に馴染もうとしない人たち。これではどんなスキルや能力を持っていても、活躍することは難しい上、周囲もサポートする気をなくしてしまう。