「自分が一番好きになれる自分」になれる環境を見つける
バルセロナ大学のフェイクサスらは、161人のうつ病患者と、110人の精神衛生上問題がない人を調査し、うつの人の約7割が心の中に葛藤を抱えていることを明らかにしました(*3)。
これは、精神衛生上問題がない人の2倍以上の数値です。
また、葛藤を抱える人の9割近くが自殺をしようとした経験があることも分かりました。
こうした、理想と現実のギャップがあるときの葛藤を「認知的不協和」と呼びます。
これは人間にとって非常に不快な状態です。その不快感を解消するために、人は言い訳をしたり、自分を正当化したり、他人を攻撃したりします。
心の病気も、背後には認知的不協和があることが多いのです。
となると、心の健康を保つためにも、人間の性格は固定的だと考えない方が良さそうです。
「自分」とは、案外あいまいなもの。
「自分はこういう人間だから」と決めつけることなく、もっと気楽に、「いろいろな自分を見つけていく」生き方のほうが、人間にとっては自然だと思います。その過程で「自分が一番好きになれる自分」が見つかれば、もうけものです。
もし、その「自分が一番好きになれる自分」でいられる時間を長くしたいと思うなら、そんな自分になれる「環境」を探す方が、モード性格論的には近道です。
自分を変えることは難しいかもしれませんが、「自分が一番好きになれる自分」になれる環境なら見つかるかもしれない。
そんなふうに考えてみましょう。
人の幸せを願うと自分も幸せになれる
自分のことばかり考えてしまっている自意識過剰の人には、少々耳が痛い話かもしれません。
「どうせ考えるなら、他人のことを考えている人の方が幸福度が高い」とする驚きの研究報告があります。
人の幸せを願うと自分も幸せになれる、というのです。
アイオワ州立大学のジェンタイルらは、次のような実験を行いました(*4)。
496人の大学生に、12分間にわたり大学構内を歩いてもらいます。そのさい心の中で「あること」を考えてくださいと伝えました。
その「あること」によって、大学生を4つのグループに分けました。
グループB)その人と自分にはどんな共通点がありそうか、考えてみる
グループC)その人より自分の方が優れていそうな点はどこか、考える
グループD)その人の服装や持ち物について考察してみる
大学構内を歩いてもらう前後で、不安、幸福度、ストレス、共感性、他者のつながりなどのスコアを比較したのです。
すると、散歩後に幸福度のスコアが高くなったのは、「他人の幸福を願う」グループAでした。Aのメンバーは、不安は減少し、共感性や他者とのつながりにおいても高いスコアが出ました。
(*3)Feixas, G., Montesano, A., Compan, V., Salla, M., Dada, G., Pucurull, O., Trujillo, A., Paz, C., Munoz, D., Gasol, M., Saul, L. A., Lana, F., Bros, I., Ribeiro, E., Winter, D., Carrera-Fernandez, M. J. & Guardia, J. (2014) . Cognitive conflicts in major depression: between desired change and personal coherence. British Journal of Clinical Psychology, 53, 369-385.
(*4)Gentile, D. A., Sweet, D. M., & He, L. (2020) . Caring for Others Cares for the Self: An Experimental Test of Brief Downward Social Comparison, Loving-Kindness, and Interconnectedness Contemplations. Journal of Happiness Studies, 765-778.