球団にとって選手は大事な資産
MLB球団ではスター選手は複数年の大型契約を結ぶようになっている。総額100億円を超える契約も珍しくない。球団にしてみれば、こうした選手は「資産」であって、その運用には慎重にならざるを得ない。
特に投手は1試合、1球の投球によって肩肘を損傷し、場合によっては引退に追い込まれたりもする。一瞬にして「不良資産」になることもあるのだ。そのリスクを回避するのは、球団にとっては「ビジネスの帰趨」に関わる重大事だ。投球制限をシビアに実施するのは当然だ。
「沢村賞」の基準を改定すべきこれだけの理由
沢村賞の話に戻ろう。この賞が本当に「現在の投手最高の栄誉」であるのなら、投手に「昭和の基準に合わせた投球を強いる」のではなく、反対に選考基準の方を時代に合わせてアップデートすべきではないか。
MLBでも投手最高の栄誉とされる「サイ・ヤング賞」がある。1956年制定だがこの賞は野球の進化に対応して、先発だけでなく救援投手も選考対象にしている。そして勝利数や防御率ではなく、選手成績の総合指標であるWAR(Wins Above Replacement)などさまざまな基準を参考に選考している。
沢村賞も近年、MLBのQS(Quality Start:先発で6回以上投げて自責点3以下、先発投手の最低限の責任とされる)に倣って「先発で7回以上投げて自責点3以下」を参考にしてはいるが、その他の選考基準は時代遅れと言わざるを得ない。
オリックスの山本由伸はこの2年で6500球以上を投げた。投げすぎが懸念されたが、日本シリーズ第1戦で左脇腹を痛めて緊急降板した。来年のWBCの出場も不安視されている。過去にも沢村賞を受賞してから肩肘、腰などを痛めて成績が急落した投手がいた。
「沢村賞」の選考基準を一つでも多くクリアしようとして、無理をしたことが故障につながったとすれば、本末転倒だろう。
2019年の沖縄県石垣島のロッテ春季キャンプ、千葉からのツアーで来たとおぼしき年配の男性が、プレスパスを提げた筆者に近づき
「佐々木朗希は、今日は投げないのか?」と聞いた。
「今日はノースローの予定です」と言うと、厳しい表情をして
「なぜ投げさせないんだ。若いうちから甘やかすとろくなことならんぞ」と言った。
世間には、こういう「昭和頭の野球好き」がまだたくさんいる。彼らの認識を改めさせるためにも「沢村賞」の基準を改定する時が来ている。