「正直言って迷惑なんだよね」

昭和の大投手の時代のように「先発完投」を短いタームで繰り返せば、投手はあっという間に肘の靭帯じんたいを断裂したり、肩の内側筋肉を損傷して、投げることができなくなるのだ。

NPBの現場でもそのことは重々承知だ。今では2月1日のキャンプインから投手の球数は練習も含めすべてカウントされ、厳重に管理されている。佐々木朗希のような逸材は、肩、肘、腰の状態を日々チェックし、異常があれば登板回避させている。

「もっとたくさん投げて沢村賞を取れって、えらいOBが言うのは、正直言って迷惑なんだよね」あるパ球団のブルペンコーチは言った。

しかしながら、沢村賞選考委員に代表される「昭和の野球人」の影響力は依然として大きい。アマチュア野球の指導者の中には「先発完投型の投手を作る」ことを目標にしている指導者がいまだにいるのだ。

そういう指導者は

「何球投げたら故障するなんて、データで証明されていないじゃないか」
「正しいフォームで投げれば、何球投げても故障なんかしない」
「そもそも投球制限しているアメリカの方が肘を壊してトミー・ジョン手術(肘の側副靭帯再建手術)をしている選手はずっと多いじゃないか」

などと反論する。

最新研究でわかった投手が故障するメカニズム

投手が投球過多で故障するメカニズムは、すでに解明されている。

2019年10月に来日した米国スポーツ医学研究所(ASMI)研究主任で大リーグ機構アドバイザーのグレン・フライシグ(Glenn. S. Fleisig, Ph.D)博士は大阪大学の講演でMLB、アメリカ野球界の「投球障害」の研究について発表した。

大阪大学で講演するフライシグ博士。
筆者撮影
大阪大学で講演するフライシグ博士。

ASMIは、投手の肘・肩の障害について「エリート、プロ投手」と「若いアマチュア選手」に焦点を絞って20年以上前から追跡調査を行ってきた。

その結果として若い選手は「年間100イニング以上投げると障害発生率は3倍以上」になる。また試合で80球以上投げるとリスクは4倍、これを年間8カ月続けると5倍、疲労時に投球するとそのリスクは36倍になる。

またケガの危険因子は「投球数」「投球のメカニクス」「球速」「球種」「マウンド」があるとした。

さらに近年の「トミー・ジョン手術」の増加は、投手の平均球速の上昇と相関関係があることも示した。