「テレビで俺の生活が放送されている」
転機が訪れたのは長男が30歳の頃。長男の様子が明らかにおかしくなってしまったのです。母親に向かって「大学教授と同級生が電話で俺の悪口を言い合っている」「テレビで俺の生活が放送されている」といった発言をするようになりました。
心配した母親は長男を何度も何度も説得し、近所の心療内科を受診させました。すると医師からは「統合失調症の疑いがあります」と言われました。
その後も通院を続け様子を見ていましたが、長男の状況はあまりよくなりませんでした。母親は医師に向かって「長男は仕事もできずに収入がなく、将来が不安です」と伝えたところ、医師から障害年金を請求してみてはどうかとアドバイスを受けたそうです。
そこで母親は長男を連れて年金事務所へ相談に行きました。相談窓口で長男の年金記録を調べてもらったところ、20歳から国民年金は未納状態であることが分かりました。窓口の担当者から「ご本人(長男)は保険料の納付要件を満たしていませんので、そもそも障害年金が請求できません」と告げられてしまいました。
年金事務所で未納を指摘された後、父親がさかのぼれるだけさかのぼって国民年金の保険料を支払いました。しかし、それでも障害年金の請求はできません。保険料の納付要件のルールには「初診日の『前日』において未納が多すぎないこと」といったものがあるからです。つまり「その障害で病院を受診した『後』に未納状態を解消してももう遅い」ということになってしまうのです。
「自分は障害年金がもらえない。仕事をして収入を得ることも難しい」
あまりのショックに長男の生活はどんどん乱れていきました。昼夜逆転の生活はさらにひどくなり、早朝に就寝して夕方ごろに起床。食生活も不規則になり、母親の用意した食事を食べることも減り、深夜にお菓子やジュース、コンビニの揚げ物などを好んで食べ続けていきました。心療内科の通院も無断でやめてしまい、市区町村の健康診断を受けることもありませんでした。運動もせず、自室からほとんど外に出ない。そのような不規則な生活が十数年も続いたためか、ある日、長男の体に異変が起きてしまいました。
長男が46歳の頃。早朝、布団の中でいつの間にか右半身がまったく動かせなくなっていました。「しばらく寝ていれば治るだろう」。長男はそう思っていましたが、状況は一向に改善せず、ついにパニックになって大声で助けを呼びました。その声にびっくりした母親が長男の自室に駆けつけ、すぐに救急車を呼びました。
緊急搬送された病院では脳梗塞の診断を受けました。意識はあったので手術はせず、内服薬(血液が凝固して血管がつまるのを防ぐ薬)を処方され、入院してしばらく様子を見ることになりました。入院中も右手の握力はほとんどなく、かろうじて右下半身を動かすことはできました。そのため、入院中のリハビリは右下半身を中心に行い、右上半身のリハビリはほとんどしなかったそうです。リハビリをする以外は、一日のほとんどをベッドの上で過ごしていました。